恋愛なき時代に恋愛の物語紡ぐ Kパーソン 川村元気

投稿日: 2017年01月16日 14:00 JST

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(写真・神奈川新聞社)

 

「人の力ではどうにもならないことがある。それは死、お金、恋愛だと思う」。「世界から猫が消えたなら」で死を、「億男」でお金の問題を描いた。3作目の小説「四月になれば彼女は」(文芸春秋)のテーマは早くから決まっていた。

 

大人の恋愛小説は最近売れないと編集者が言う。「なぜか」。分からないことは知りたい。結婚すると愛は情に変わると言う。「本当か」。定説を疑う。

 

100人を超える男女に話を聞いた。ほとんどが切実な恋愛をしていなかった。「何か不気味だな」と感じ、気付いた。「愛を失った人たちの話を書けば、今のリアルな物語になる」

 

恋愛感情の喪失について、何人もの精神科医に取材した。すると彼ら自身、恋愛や結婚生活に問題を抱えていた。

 

「僕たちと一緒だと思った。一億総精神科医状態というか、みんな人の問題は解決できるのに、自分のことは解決できていない」。主人公の男性、藤代俊の職業を精神科医にしようと決めた。

 

藤代は、獣医師の弥生と間近に結婚を控えているが、セックスレスだ。会話もうわべだけで、すれ違う。そんな中、藤代の大学時代の彼女から手紙が届く…。

 

「君の名は。」「怒り」「何者」と話題作を生み出す映画プロデューサー。多忙なヒットメーカーが、小説に向かうのはなぜか。

 

「映画の現場で監督や俳優、小説家と戦闘を繰り広げる。その中で受け取る感覚がある。僕は、そんな集合的無意識とも言える感覚を物語にしたい」。皆がうっすら感じているが、表現されていないこと-。そこにアクセスしたいという、強い欲求がある。

 

「四月に-」を執筆中、得がたい体験をした。

 

〈私たちは愛することをさぼった〉〈些細な気持ちを積み重ね、重ね合わせていくことを怠った〉。せりふをタイプする自分に、ぞっとした。「自分が逃げていた、隠していた気持ちだった」。自身を深く掘り下げた先に、集合的無意識があると信じる。

 

だから、自分が知りたいことに小説で取り組む。「面白いんです。自分の知らない自分に遭ってしまう瞬間が」

 

最近もう一つ、人間にコントロールできないものがあると気付いた。次作のテーマは「記憶」だ。

 

◆お気に入り

「最近、花火大会を見て回っているんです」。次作のテーマ「記憶」に関わるからだという。「花火の色や形は忘れてしまうけど、誰と行ったか、どんな気持ちだったかは、覚えていますよね。不思議だなと思って」。花火を見ている人の顔を見続ける。「みんな幸せそうな、いい顔しているんです」

 

「えっ、神奈川新聞の花火大会、もうやらない? 切ない。それは切ない」

 

◆かわむら・げんき

1979年、横浜市生まれ。市立金沢高校、上智大学文学部卒。映画プロデューサーとして「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「バケモノの子」など数々の注目作を送り出す。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。記録的ヒットとなった「君の名は。」や、「怒り」「何者」と昨年の話題作にもことごとく携わった。小説デビュー作「世界から猫が消えたなら」はミリオンセラーとなり、映画化された。2作目の「億男」も中国での映画化が決まっている。

 

◆記者の一言

「実家で神奈川新聞とってましたよ」。今をときめく敏腕プロデューサーが開口一番、場を和ませてくれた。

 

映画「悪人」を作った際、原作者で脚本も書いた作家の吉田修一と映画、小説でそれぞれできることを議論した。小説と向き合い、映画のアドバンテージは音だと気付く。「怒り」で坂本龍一が、「君の名は。」でラッドウィンプスが、アドバンテージを最大限に生かした。

 

「四月になれば彼女は」はサイモン&ガーファンクルの曲名だ。今作では「音楽的な小説」に挑んだ。「恋の一番美しい時期を切り取った歌だが、半年で終わる。続きを紡いでみたかった」

 

向田邦子に憧れるという。「向田さんの小説って映像的。あの人も映像と小説の場にまみれていた気がする」。映画と小説を往還する鬼才から、目が離せない。

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