「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」著者・上間陽子さん(琉大教授)に聞く〈1〉子どもの悲しみ見過ごす社会

投稿日: 2017年02月15日 16:00 JST

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上間陽子さん(琉球大学教育学部研究科教授)
(写真・琉球新報社)

 

琉球大学教授・上間陽子さんは、沖縄の夜の街を歩き、早くに風俗業界に押し出された未成年の少女たちの話を聞いてきました。初の単著「裸足で逃げる」(太田出版)は、家族や恋人、見知らぬ男たちの暴力から生き延びるために逃げ出し、自分の居場所をつくってきた女性6人の生活を記録しています。彼女たちのそばに立って見えたという沖縄の貧困と暴力の社会、支援するとはどういうことなのか、上間さんに聞きました。

 

貧困は暴力

 

〈優歌、翼、鈴乃、亜矢、京香、春菜。本に登場するのは、6人の女性。家族からの虐待、恋人からのDV、見知らぬ男たちからの性暴力から生き延びるため、その場所から逃げ出した。多くが10代で子どもを産み、パートナーと別れた後、1人で子どもを育てるために風俗で働いていた〉

 

―本を通して、少女たちの生い立ちをたどると、暴力と貧困の日常が見えてきました。先生自身、4年間沖縄の夜の街を歩いて、少女たちの話を聞いて、見えてきたものは何だと感じていますか。

 

沖縄は貧困社会であること、そして貧困は、まぎれもなく暴力の問題だということです。

 

暴力は、もちろん私たちの日常生活にあるものですが、それを押さえ込むためのさまざまな装置や工夫があると思います。

 

その装置や工夫の存在によって、人は人と暴力なしに滑らかにつきあうことができると思います。そうした装置や工夫を働かせることが難しくなる、というのが貧困であり、些細なことで滑らかにつきあうことができなくなることだと思います。

 

また、たとえ貧困問題があったとしても、日常生活を守ることができる層と、できない層の分断があるように思います。

 

共同研究者の打越正行さんがよくおっしゃいますが、「これをやると数カ月の生活が破壊される」「5年後が分からなくなる」という認識がある層と、最初から生活が破壊されていて、数カ月先、5年後先のことが見えない層では、当然、暴力が発動するか否かの違いがあると思います。

 

そうした暴力は、子どもや女性に向かいます。私が調査した女の子たちは、暴力や貧困の吹き荒れる家を、自分の意志で逃げたので、逃げた先で起こった事柄も、自分のせいだと思っています。

 

根幹にある、貧困が暴力を発動させるという認識に立ち、被害者を保護できる場所の拡充、加害者の再教育に、社会は取り組まないといけないと思います。

 

子どもと語り合う場に

 

―同時に、本からはまだ子どもであるはずの少女たちが、多くの責任を負わされている現実、「ゆいまーる」という互助の精神からほど遠い、沖縄の姿が見えました。子どもを早くに大人にしようとする沖縄のゆとりのなさ、未成年に責任を、という言い方をしてしまう背景に何があるのか、もう少し詳しく聞かせてください。

 

沖縄は、子どもを大事にする社会なのか? 私は大きな疑問があります。

 

どうして、家に親の恋人が来るからといって、家の外に追い出される子どもがいるのか? その子どもの哀しさや孤独はなぜ見過ごされるのか。どうしてあんなに身体の小さいヤンキーの子たちがいるのか?

 

あんなに小さな身体は、被虐待児の身体特徴そのものであるはずなのに、その子どもが大事にされていない。

 

「親が悪い」という言葉は沖縄にはあふれている。沖縄の教育界は、親を教え、導こうとします。中央に上に追いつけ、という論理が、親の暮らし方を簡単に批判し、その生活を無視した、「良い」とされるものを一方的に押し付けることを「導いている」と勘違いしていると思います。早寝・早起き・朝ごはん運動などは、その最たるものでしょう。

 

でもそれでは、個々の暮らしのことは見えなくなります。学テ一辺倒の教育は、しんどい家庭の子どもが学校に居場所をつくることができない状況に加担しているのではないでしょうか。調査で、沖縄の学テの悉皆データの分析を手がけましたが、何も回答できない子どもが一定数いることが分かっています。その子どもたちに対する手立ては、ドリル学習ではなく、よりよく生きたいという関係の再建なくしてありえません。

 

学校にいられない子ども、早くから不登校になる子どもを自己責任・家族責任と切り捨てる。子どもたちがいられない学校をつくっているのは誰なのか? 子どもはそこで生き生きとしているのか、生きていく幸せを培っているのか?

 

貧困に抗うということは、自分の今の生活を語り、友だちや他の子どもたちの生活を聞き納得し、もっと幸せに生きたいという思いをつくっていくことがベースになるはずです。それをできなければ、子どもたちが暴力に絡み取られることは防げないと私は思っています。学校は、貧困に抗う最前線になるべきです。それは子どもと、その子の送る生活の語り合いをなくしては、ありえません。

 

(聞き手・新垣梨沙)

 

うえま・ようこ 1972年沖縄県生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。専攻は教育学、生活指導の観点から、主に非行少年少女の問題を研究。1990年代後半から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの調査・支援に携わる。共著に「若者と貧困」(明石書店)。本書が初めての単著となる。

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