来春スタートのNHK朝ドラ『花子とアン』。ヒロインは吉高由里子演じる『赤毛のアン』翻訳家の村岡花子。彼女が妻子ある男性との恋に揺れるストーリーだ。この物語には、脚本家・中園ミホさん(54)の強い想いが込められている。

「今、来年3月31日スタートの、NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』の脚本を書いています。主人公は、モンゴメリの『赤毛のアン』の翻訳で知られる翻訳家で児童文学者の村岡花子さん(’68年死去、享年75)。とてもハングリーで、逆境から立ち上がってきた彼女の生き方に強く惹かれました。村岡さんは妻子ある男性と“道ならぬ恋”をして、離婚が成立後、彼と結婚するんですが、機会があれば、ぜひ彼女の人生を書いてみたいと以前から思っていたんです」

 中園さんは、’59年生まれで東京都出身。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務、四柱推命の占い師を経て、’88年、脚本家としてデビュー、という異色経歴を持つ。代表作は『やまとなでしこ』『ハケンの品格』など多数。今年、脚本家の橋田壽賀子さんが放送文化に貢献したテレビ番組や個人に贈る『第21回橋田賞』と、『はつ恋』(NHK総合)、『ドクターX〜外科医・大門未知子』(テレビ朝日系)で『第31回向田邦子賞』を受賞した。

「向田邦子賞の贈賞式で『これまでついてない人生を送ってきたんですけど、こんないいこともあるんですね』とスピーチしましたが、私は10歳で父を病気で失い、19歳のときに母も病気で亡くして、2歳上の姉と孤児になりました。父の死後、母は、姉と私が大学を卒業するまでの学費と、マンションを残しておいてくれたおかげで生活に困ることはなかったですけど……」

 中園さんは大学卒業後、1年3カ月ほど広告代理店に勤めたが、四柱推命の占い師に転身する。占い師になった理由は、母親の友人に2人の占い師がいて、14歳ごろからその2人に四柱推命を教えてもらっていたから。

「広告代理店を退職した私にとって生きる術は占いしかなくて。以前から日本占術協会に登録していたこともあって、24歳のとき、ある女性占い師の先生の助手みたいな形で占いの仕事に就きました。占い師時代に経験したことは、脚本家になって、人物を描くうえでとてもプラスになったと思います」

 中園さんが脚本家になったのは、ひょんなことからだった。彼女は子供のころからテレビドラマが大好きで、大学も卒論の代わりに脚本を書いて卒業した。そのためか、卒業後も中園さんの周りには何人かの脚本家がいた。そのうちの1人と夜の街を歩いているときに、ある男性と出会う。

「その方は一緒にいた脚本家の知り合いの脚本家で、私は彼に一目ぼれしてしまった。それで、ストーカーのごとく彼につきまとうようになった。彼がホテルにこもって脚本を書いていれば、ロビーで待っていたりして……。そんなある日、彼に『これ以上つきまとうな。つきまとったら警察に言うぞ』といわれて。そのままとぼとぼと駅まで行って、泣きながら何台も電車を見送りました。そのとき『そうだ、私が脚本家になれば、あの人とまた会うことができる』と」

 それから2年後、29歳のときに『ニュータウン仮分署』(テレビ朝日系)で脚本家デビューを果たす。新進気鋭の脚本家として注目された彼女だが、’93年、34歳で男児を出産し、未婚の母に。

「未婚の母になったことについては人生で最良の選択をしたと今でも思っています。産むと決めてからは、毎日おなかの子供に『生きるって楽しいから、生まれておいで』と。これが私のした胎教でした。何があろうと脚本家でやっていこうと決めたのは、子育てをしながら自分にできる仕事は『これしかない』と思ったからです」

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