隔週連載〈中山秀征の語り合いたい人〉。今回のお相手は、世界で待たれるスタジオジブリ最新作『思い出のマーニー』の監督を務めた米林宏昌さん(41)。『借りぐらしのアリエッティ』で監督に抜擢されたときのいきさつは……。
中山「ジブリに入社しても、“監督”になるのはそうそう簡単なことではないですよね?」
米林「階段式に昇格するシステムではないですからね。ただ、自分がどうして監督に抜擢されたのかは今でも謎なんですが……」
中山「監督を目指していたわけではなかったんですね?」
米林「はい。『崖の上のポニョ』という作品までアニメーターをしていましたし、『ポニョ』でアニメーターの面白さを実感していた矢先に、鈴木(敏夫)さんから呼び出されて。部屋に入ったら鈴木さんと宮崎(駿)さんと星野社長が並んで座っているので、これは自分が何かすごくまずいことをしたのかなと思ったら『演出をやってみないか』って」
中山「そのときはうれしかったでしょう?」
米林「……うれしくないです……。演出をやりたいなんて一度も思っていなかったですし、どうやったら断れるかなってことを考えていました」
中山「アハハハ。それで何て?」
米林「『僕には主義とか主張というものがないのでできません』って。そしたら『主義や主張は原作の本に書かれているから大丈夫、大丈夫』と。じゃあ、『僕には映画の絵コンテは描けません』と言ったら『お前、ふだん映画は見るだろう?だったら大丈夫だ』と。映画を見ていれば映画が作れるのなら、誰でも映画監督になれますよね。もう話がめちゃくちゃで……(笑)」
中山「何を言っても断れなかったんですね。たとえば、宮崎監督と鈴木プロデューサーは二人三脚というか、物作りに関して共に仕掛け合いをしたりしていますよね。駆け引きというか」
米林「はい。監督をやるとなったらその駆け引きに巻き込まれるわけですよ。もう、それには関わりたくなかったです、ほんとに」