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13日の金曜日にフランスでISによる大規模な同時多発テロがありました。そのとき、たまたま私は京都にいたのです。9年間、教授を務めた京都造形大学の授業のために。この授業を最後に私は教授職を勇退することになっていたのです。短期日本滞在なので息子は彼の親友のフランス人家族に預けてきました。報道でご存じだと思いますが、1月のシャルリーエブド襲撃事件よりも大規模なテロでした。報道を聞いたときは、心臓が止まるかと思いました。何せ、息子をひとりパリに残して来ていたのですから。なんでこのタイミングですか? と神様に文句を言ったほどです。フランスから届くテロ映像は衝撃的なものでした。

息子のことが心配で仕事が手につきません。大学側と相談をし、帰仏を早めてもらうことになるのです。ところが週末で旅行代理店と連絡がつかず、結局、予定していた便でパリに戻ることになります。空席待ちで購入したチケットでしたが、搭乗してみるとガラガラ、3分の1も乗客がいません。私は息子と再会し、しっかりと抱きしめてやりました。でも、息子はいたって平然。「パパ、そんな凄いわけじゃないよ、いつもと何も変わらないから大丈夫」と拍子抜けする意見が戻ってきたのです。たしかにテロ現場以外のパリ市内は平穏でした。人々は悲しみに暮れ、ショックを受けていましたが、それは震災直後の東京の光景に似ていました。パリで暮らす人々は「東京ではもう暮らせない」と想像していました。その感覚に似ています。人々はこのテロと向き合い、悲しみを乗り越えようとしていたのです。月曜日より、火曜日のほうがより穏やかになっていました。

ところが、この原稿を書いているのは、11月18日の水曜日なのですが、今朝、パリは再び明け方から騒がしくなります。「主犯格のテロリストがサンドニで警察と銃撃戦」と友人からのSMS速報。慌ててテレビをつけるとパリ郊外のサンドニ地区の建物に複数のテロリストが立てこもり、警察と銃撃戦をしている映像でした。司会者が言いました。「本日、サンドニ周辺の学校は休校となります」と。息子が起きて来て、市内の学校通常通りだってよ、と言いました。びっくりじゃないですか? 郊外とはいえ、パリをすぐ出たところで銃撃戦をやってるんですよ! しかも、あれほどのテロが起こった直後のこと。日本だったら、学校を休みにするのじゃないでしょうか? でも、フランスはちょっと違うんです。大丈夫だよ、という息子の反対を押し切って、私は学校まで同行することにしました。けれども、校門前に親の姿はありません。生徒たちはみんなひとり。これだけの銃撃戦が起こっているというのに、子供たちは電車を乗り継ぎ、学校まで一人でやって来ていました。「ほら、言ったでしょ。パパ、恥ずかしいから、ここまででいいよ。じゃあね、パパこそ、気を付けて帰って! ぼくは大丈夫だから」と言い残して息子は走って校門に消えたのです。

珍しく、見張りの先生が1人立っている以外、学校の様子もいつも通りでした。私は仕方なく、もちろん納得出来ないまま、を返しました。公園では老人たちが日向ぼっこをしていますし、犬の散歩をする人々、ランニングをする人々の姿など、薄日さす水曜日のいつもと変わらぬ光景が広がっていました。金曜日のあの同時多発テロ、そして今日の銃撃戦、その恐怖からどうやって彼らは脱しようとしているのでしょう。国民性の違いなのかもしれません。家に戻り、テレビをつけると、テロリスト2人が死亡、7人拘束、とのテロップ。たった今、特殊部隊の作戦が完了した模様です。日常のすぐ隣に異常が同居している。これが今のパリなのかもしれません。親としては、ひたすら困惑するばかりです。

さて、本日のムスコ飯、日常ではなく、ちょっと特別な「秋の味覚、ポルチーニごはん」の登場です。

材料:生ポルチーニ5個(空輸もの、代用としてエリンギ)、乾燥ポルチーニ(1袋25g、高級スーパーなどで400円くらい)でもOK、白米、白ワイン、西京味噌、とろけるスライスチーズ、グリュイエールチーズ、アンチョビ2ヒレ、銀2枚、にんにくひとかけら、塩昆布、固形コンソメ、バター10g程度、ゲランドの塩、黒こしょう少々、生パセリ、オリーブオイル。

レシピ。乾燥ポルチーニ10gをハケなどを使い汚れを落としてから250mlの水で戻し汁を作ります。必ずしてください。白米2合分をとぎ、その釜に先の戻し汁を、2合目盛りよりやや少なめまで入れます。残りは白ワイン、合計2合分の水分量となります。米の中に隠すようにとろけるスライスチーズを。その上に、西京味噌(合わせ味噌でも)小さじ1、アンチョビ2ヒレを粗みじんにしたもの、塩昆布ひとつまみ、にんにくひとかけら粗みじん切り、固形コンソメを細かくしたものなどをちりばめる。銀鱈2枚(皮と骨を丁寧にとってください)、中央に並べ、バター10gを載せ、黒こしょうをふります。ポルチーニ5個を二等分(中を切ると虫がいるかわかりますので、必ずチェックしてください。代用はエリンギがベストです)し、鱈を取り囲むように重ねて並べ、中程に(WEBのレシピ写真とは異なります。なるべく真ん中に。量も半分、20g)スライスしたグリュイエールチーズを載せます。オリーブ油をふりかけ、早炊きボタンで炊いてください。炊き上がりましたら、まず、ポルチーニを別の皿にいったん移し、中をかき混ぜてから、ごはんを先に皿に盛り、その上にポルチーニを置き、生パセリ、ゲランドの塩を少しふりかけます。なお、生のポルチーニは高価なので、エリンギで代替できます。さ、欧州の秋の味覚、ポルチーニごはんをお試しください。

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

辻仁成/つじ ひとなり

作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。

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