鉄、銅、鉛などの金属元素と硫黄(いおう)が結合した鉱物を「硫化鉱物(りゅうかこうぶつ)」と言います。この「硫化鉱物」の中でも最もポピュラーなものが、鉄の元素「Fe」と硫黄の元素「S」が結合してできた化学組成FeS2の「黄鉄鉱(おうてっこう)」と言われる鉱物です。これを英語では「パイライト(Pyrite)」と言います。
ただ、和名と英名では名前の由来が異なっています。和名の「黄鉄鉱」は写真でもお分かりのとおり、黄金ではないかと見間違うほどの金色をした鉱物。この名がついたことが容易に理解できますね。では、英名の「パイライト(Pyrite)」はどこから来たのでしょうか。「パイライト」の「パイ(Pyr)」は、実はギリシア語で「火」を意味するそうです。と言うのも、この石は古代から火打ち石として使われたきた歴史があるとのこと。なるほど、一見関係がないように思える和名と英名の鉱物名もそれぞれに納得できる由来が存在するということですよね。
では、この鉱物はどんな所で産出されるのかと言えば、「硫黄」が豊富な所、すなわち火山活動が活発な所です。海外ではスペインのログローニョという所が有名な産地です。火山と言えば日本も火山国ですから、当然、日本にも「パイライト」の産地はいくつもあります。有名なのは、岩手県の仙人鉱山、新潟県の赤谷鉱山、埼玉県の秩父鉱山、秋田県の小坂鉱山などです。
では、この「パイライト」の魅力はというと、黄金のような輝きを持った色もさることながら、その結晶のユニークさにあります。サイコロのような立方六面体を形成していて、それはまるで現代彫刻ようにオシャレな感じです。面白いことに、「パイライト」は立方六面体だけではなく、五角十二面体という独特な形状のものもあれば、八面体の石もあるのですよね。
ではここで、「パイライト」を語るときによく引き合いに出される挿話と「パイライト」のもうひとつの呼び名をご紹介しておきましょう。これは「パイライト」の黄金色にまつわるお話です。もし、山や川などで何気なく拾い上げた石が金色に輝いていたら、「これは金ではないか!」と胸をときめかせる人がいてもおかしくありませんよね。私も小学生の頃、学校の理科室にあった鉱物標本のケースにこの「パイライト」があったのを記憶しています。それは金色のようにキラキラしていて、「これは金かしら……」と思ったものでした。
これに類した錯覚は、世界中で起こっていたはずですね。そこでつけられた「パイライト」の別称が「愚者の黄金(Fool’s Gold)」とのこと。わざわざ「愚者」という蔑視的な言葉がつけられたことから推測すると、「パイライト」を黄金と思い込んだ人も多かったのでしょう。例えば、黄金と信じて隠し持っていた人がいたとか、金の取引所に換金目的で持ち込んだとか……笑い者にされた人たちがいたに違いありませんね。
では、次回は「パイライト」のパワーストーンとしての効能にフォーカスしてお話ししましょう。