新年度から宮内庁に創設された広報室。初代室長に、警察庁警備局の外事情報部で経済安全保障室長を務めていた藤原麻衣子氏の就任が報じられると、霞が関には驚きの声が広がったという。
「経済安全保障室は昨年発足した部署で、事件の捜査指揮や情報収集、企業などに対し情報管理について助言する活動を行っている“スパイ対策”のプロ集団。増加している企業や研究機関へのスパイ活動をけん制するために、政府は経済安全保障の分野に力を入れています。
藤原さんはその最前線で管理職を務めあげ、彼女は“警察庁のエース”という評価を確実にしていましたから、“よく宮内庁に出したな”という声も上がりました。それほどの人材を初代室長に据えたとあって、宮内庁の西村泰彦長官がいかに期待をかけているのかがよくわかります」(警察庁関係者)
西村長官も警察庁の出身で、長く警備畑を歩み、警視庁のトップである警視総監まで務めた筋金入りの警察官僚だ。また、広報室が属する宮内庁総務課の現在の課長・鈴木敏夫氏も警察庁出身だ。
「総務課は広報や報道だけではなく、行幸啓や拝謁、一般参賀に関することなど幅広い事柄を担うセクションです。その課長に鈴木さんという警察庁の後輩を据えたのも西村長官の意向があってのことでしょう。
昨今、宮内庁の主要ポストに警察官僚が占めるようになっています。秋篠宮家に仕える皇嗣職のトップ・皇嗣職大夫の加地隆治さんも警察庁出身で、皇室の施設や財産などを管理する管理部長を務める野村護さんも4月から警察庁から異動してきました。また昨年は、吉田尚正元警視総監という“大物”も宮内庁御用掛に就いており、警察出身者が重んじられる傾向が強まっているように感じます」(宮内庁関係者)
それにしても、なぜ警察庁出身の官僚が重用されているのか。
「公務員のなかでも、警察の人間は皇室への強い敬愛の念や忠誠心があるように感じます。たとえば西村長官は2016年に宮内庁次長に就きましたが、前職は内閣危機管理監という官邸幹部でした。慣例では、事務次官経験者が各省の顧問などを経て次長に着任するため、当時は“安倍晋三首相が宮内庁をコントロールしようとしている”などと報じられたこともありました。
しかしふたを開けてみれば、西村長官は次長時代から忠実に両陛下、上皇ご夫妻に仕えてきた、という声が多いです。国論を二分した東京五輪の際にも天皇陛下のお立場に寄り添い、長官は“陛下は開催が感染拡大しないか懸念されていると拝察する”と、政権からのプレッシャーにも臆せずに発言することがありました。
宮内庁にやってきた警察官僚たちは、陛下や雅子さまをはじめとして皇室の方々が徹底して国民に寄り添うご姿勢を貫かれていることを目の当たりにし、“公に奉仕する”という意識が、再び呼び起こされるのではないでしょうか」(前出・宮内庁関係者)
また、官僚組織としての性質が似通っているという点もあるという。
「宮内庁は皇室の皆さまを支えるための組織であり、トップダウン型の組織です。警察も階級による上下がはっきりしていて、明確に“上意下達”を徹底している組織風土があるので、似通っている部分もあります。また、警察はキャリアであっても警察署での勤務もあり、捜査や警備などの現場での経験を積まされますから、“上からの命令を忠実にこなす”という意識が強くなるのかもしれません。
とはいえ、公安部門などをはじめとして、警察は見方によっては“国民やメディアに睨みを利かせる”という側面があることも事実です。警察官僚が宮内庁内に増えすぎることで、戦後の皇室が目指してきた『開かれた皇室』と逆行するような風潮にならないか懸念している関係者も少なくありません」(皇室担当記者)
宮内庁が、皇室と国民との距離を遠ざけるような組織にならなければよいのだが――。