大手広告代理店「電通」の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)は、去年12月25日に住んでいた都内の会社の寮で自殺しました。
高橋さんは東大文学部を卒業後、昨年4月に電通に入社。インターネット広告を担当するデジタル・アカウント部に配属されました。代理人弁護士は本採用となった同10月以降、労使協定で定めた上限の70時間を大幅に超える残業が続いていたと主張。調査にあたった三田労基署も高橋さんの1カ月(10月9日~11月7日)の時間外労働が約105時間にものぼっていたとして、「仕事量が著しく増加し、時間外労働も大幅に増える状況になった」と心理的負荷による精神障害で過労自殺に至ったことを結論づけ、過労死と認定しました。
高橋さんは亡くなるまでの数カ月間、SNS上で《土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい》とつぶやくなど、精神的にも身体的にも限界であったことがわかります。また上司からは「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」、「目が充血したまま出勤するな」などと言われ、重労働に加えてパワハラやセクハラも受けていたことがわかりました。
日本の労働時間の異常な長さと結果としての過労死の多さは、昨日今日で始まったものではありません。英語でも“karoshi”という言葉があるほどです。仕事が思った通りにいかないと精神的に苦しくなるなど、最初は感情にきます。それが進行していくと最後は体調を崩すようになります。体調を崩すというのは深刻な赤信号なので、緊急措置をとった方が良い。たとえば会社での就業時間を減らしてもらうか、数日間にわたって休むか、場合によっては会社を辞める選択まで視野に入れて検討する必要があるのです。
長時間労働の問題を1人で解決するのは困難です。高橋さんのツイートを見る限り、最後の最後まで仕事に対する強い責任感を持って1人で苦闘する姿が想像できます。だからこそ時間外労働時間の上限を設定したり、時間外労働に対する労働割増率を高めたり、最低休息時間を確保するなど、解決のためには政府による強制力の伴った介入が求められるのではないでしょうか。
また会社側の対策も求められます。業務時間内に仕事が終わらない場合は、仕事の絶対量が多すぎるか、仕事の仕方に問題があるか、社員のモチベーションが下がっているかのいずれかが原因として考えられます。いずれにしても、それは職場全体で改善策を考える必要があるのです。日本では始まりの時間に厳しく、終わりの時間にルーズという企業文化があります。また上司が帰らないと部下も帰れない空気があるのも、日本人なら理解できることではないでしょうか。
亡くなる直前、高橋さんは母親に「仕事も人生も、とてもつらいです。今までありがとう」とメールを送ったそうです。クリスマスの早朝のことでした。母親があわてて電話して「死んではだめよ」と話しかけたところ、彼女からは「うん、うん」と力ない返事が返ってきたといいます。しかしその数時間後、彼女は命を絶ったのです。中学生のときに両親が離婚。「お母さんを楽にしてあげたい」という一心で猛勉強して東大に合格し、電通に入社したという高橋さん。母親の気持ちを想像すると、胸が苦しくなります。
「娘は二度と戻ってきません。命より大切な仕事はありません。過労死が繰り返されないように強く希望します――」
大切な娘を亡くした母親の言葉を、我々は重く受け止めなければならないと思います。高橋まつりさんのご冥福を心から祈ります。