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かつて一躍大ブームを巻き起こした「木彫りの熊」。
何がそこまで人々を熱狂させたのか?
木彫りの魅力って?
その謎に迫る。

 

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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

 

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「木彫りの熊」と呼ばれる鮭をくわえるあの熊のことは、
恐らく成人なら誰もが知っているだろう。
数十年前、何故かおみやげのド定番だったそれはいろんなお宅の玄関に君臨していた。
川から鮭をハントするまさにその瞬間のような臨場感あふれる熊。
そこから感じられるのは生命力!躍動感!
どうやら木を彫ることが得意だったアイヌ民族がスイスのおみやげを参考にして作り始めた…というところからジャパニーズおみやげスタイル「木彫りの熊」は誕生したようだ。
それは少しずつ支持を得はじめ、
昭和40 年に訪れた北海道ブームで一躍国民的おみやげと化した。
そのブームから築かれ続けた一大観光地としての北海道ブランドは今なお健在。
これまで北海道をテーマにした映画やドラマも数多く存在し、
日本のみならず世界各国から「北海道」を求めて北の大地へやってくる。
木彫りの熊は今でこそお目見えする機会が減ってしまったが、
北海道の民芸品魂は今でも色褪せない。

 

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阿寒湖のアイヌコタン。
そこは昔、多くのアイヌ民族が移り住み小さな町を形成し今まで至る。
伝統的な古式舞踊を見ることができるシアターが併設される北海道名所のひとつで、
道路を隔て左右にずらりと並ぶ民芸店が圧巻だ。

 

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どこも木彫りの実演を行っているが
よく見るとお店によって、職人さんによって、
それぞれ異なる作品が作られる。

 

わたしはそんな30軒ほどあるお店の中でも『オイナ民芸店』にお邪魔した。

 

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ちょうど入口のかたわらにある作業場では
職人の原さんが作業を始めようと何日か水に浸けて柔らかくした「エンジュ」と呼ばれる樹の幹を取り出している。

 

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「どちらからいらしたんですか?」なんて楽しくおしゃべりしながら、手はおもむろに彫刻を始めた。

 

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まずは大きな刃物で大胆に木を削り込み、ダイナミックに成形。

 

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この彫刻は外側が白く、内側が茶色いエンジュの樹の特性を活かして作られる。

 

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徐々に細かく、繊細になっていく作業。
原さんはそれでも軽快に彫り続ける。
1時間半もする頃にはただの樹の幹は、かわいいフクロウへと変貌を遂げていた。

 

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か…かわいすぎるだろ!!!!!
しかも誕生前から制作過程を追ってしまった手前、
成長を見届けたような、母性にも似た愛着の芽生えがある。
ヒナが初めて見た生き物を親だと信じてしまうように、
「この子はうちの子だったんじゃないか。連れて帰らなければ」と思ってしまう。
木彫り実演がこんなに恐ろしいものだったとは…。

 

ふとあたりを見渡せば、
そこらじゅうに「なまら(北海道弁で“とても”)小さいの」から「大きいの」まで大小様々のフクロウ。

 

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さらにはフクロウ村まで誕生していた。
これらは全て原さんの作品。原さんは阿寒湖で18年間木彫りの職人をしている。
「昔はおみやげで…という方が多かったですが、最近では自分の記念として買われる方が増えてきています。アクセサリーや小さなもの、食器などの小物類も人気がありますね」

 

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かつてはペナントや置物といった「いかにもお土産らしさ全開のもの」が重宝されたが、
今では実用性のあるものが求められる時代。
民芸店のあり方も変わってきているのかもしれない。

 

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本来アイヌ民族の技術である「木彫り」。
神であるフクロウや熊が彫られることはあまりなかったというが、
時代のなかで、生き残るために伝統は形を変えていく。
木彫りの熊やかわいらしいフクロウにもなる。
それは、どんな伝統も同じで
頑なに同じことを続けるだけでは守れないものもあるのだ。

 

職人の国、日本。
安い工場生産の商品が主流の時代にあっても、生き残る人の技。
しかし人々から興味がなくなれば、どんなに続く伝統もそこで終わってしまう。

 

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(アイヌ民族の装束をまとう、うさこ)

 

終わらせないためには、
物の価値を知ることが大事なんだ。うさこはそう思う。

 

まずは木彫りの実演を見て親心を芽生えさせるところから始めよう。

 

『オイナ民芸品』
北海道釧路市阿寒町阿寒温泉4-7-15
職人:原良樹さん

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