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1月某日 北イタリア・パドヴァ

私が小学生だった昭和の50年代から60年代頃、日本では昼間の時間帯でも心霊体験や心霊写真特集のテレビ番組をやっていたし、夜になれば森の中へ目撃情報のあったツチノコを命がけで探しに出かける探検隊や、金属を曲げたり見えないものを透視したりする超能力者や、未確認飛行物体情報を扱った番組をたくさん放送していました。大人になってからはあまりテレビを見ない人になってしまいましたが、鍵っ子だった小学生時代はテレビ視聴を規制する家族がいないのを良い事に、とにかくそういったありとあらゆる怪しい番組を見まくっては、ウソか本当かわからない情報に〝世界ってなんてワケが分からない事だらけなんだろう!〟と胸をときめかせていたものです。

ちなみに私の暮らしているイタリアでは、UFOを見たことがある、なんて話になればたちまち周りの人たちに怪訝な顔をされます。実際、私の義理の妹の元カレはイタリア人でありながらも珍しく宇宙人やUFOを信じる人だった為に、こちらの家族から凄まじい非難を受け続けていました。この元カレはある日突然「宇宙人と交信がしたい」と言い出し、オーストラリアの荒野へ旅立つ決意をしましたが、彼女が同行したがらなかった為に大げんか。そして最終的に関係が破綻したわけですが(しかも宇宙人との交信に失敗して帰国)、このエピソードはこちらの家族の間では笑いネタとして、いまだに語り継がれています。

まあ、イタリアに限らず「宇宙人と交信しに行く」とか、「UFOを見た」とか言い出せば、日本でもどこでも怪訝な顔をされたりもするでしょう。でも、少なくとも日本には、真っ向から不可解な現象を全否定するイタリア人たちよりは、昭和の不可解事象番組で免疫がついている分だけ「まあ、とりあえず話だけでも聞いてあげようか」という反応をしてくれる人の数は多いと思います。

実際ツチノコを見たという人には会った事はありませんが、UFOを見た、という話は何度か聞きました。中にはいかにも「ウソくさいわ」というものもありましたが、やはり、そういう告白はなるべくそんな事を話しそうにも無い人の口から聞いてみたい、というのはあります。

定年を間近に控えた大手企業の男性会社員が、ある日神奈川県のとある海岸をジョギングしていたら、前方に立ち並んだ松と松の間に直径2、3mくらいの金属の円盤形の物体が、音も無く小さく宙に浮かんで左右にゆっくり揺れているのを見て、思わず立ち止まって何だろうと見つめていたけれど、だんだん怖くなって来た道を引き返したと、さらっと当たり前の事のように話してくれたのは未だに忘れられない証言のひとつです。

彼曰く「でも別に何の装飾もない、ただの金属の塊だった。朝日に当たってギラギラしていた。人が入るような大きさじゃなかった」そうですが、追及しなければ詳細を教えてくれないくらい口数の少ないあたりも、リアルさを膨らませます。「あれは、実は何かどこかの国で開発された、先進技術的機械だったんじゃないだろうか……そんな気がしている」という見解でその男性は自らを納得させていました。

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イタリアではお化けもUFOも笑いのネタにされますが……

そういえば、人気ドラマ『Xファイル』の最新シリーズが放送開始する機会にあわせて、未確認飛行物体に関する調査書のいくつかを先日からCIAのホームページでも閲覧できるようになっているそうです。それらは「UFOの存在を信じる人、疑う人、どちらが読んでも興味の持てるもの」数点に限られているそうですが、かつてはCIAの高官たちもこの未確認飛行物体なるものを地球外から飛来してきたものではなく、敵国ソビエトが製造した新兵器なのではないかと憶測していたようです。

人というのは、やはり非合理的なものをそのまま野放しにしておくと消化不良で気持ちが悪くなってしまうのか、そういう私も若い時にフィレンツェの明け方の曇り空で見た、旋回しながら移動するへんな光の記憶を〝あれはきっと下からサーチライトが当たっていたんだ〟と解釈することで一件落着した気持ちになっています。実際、心の片隅では〝でもサーチライトって遠方まで移動するもんじゃないよな……。だいたいフィレンツェみたいな古い小さな街にサーチライトが設置されているような場所があるのか〟という一抹の疑問も持ち続けていますが、イタリアでは義理の妹の元カレみたいな冷酷なリアクションをされる可能性があるので、今までそれについては誰にも話したことがありません。時期もちょうど冷戦が終わる直前だったので、当時のCIAの高官に言わせれば、あれもソビエトの偵察飛行物体だった可能性とされるでしょう。

 

お化けもUFOも笑いのネタにされるイタリアですが、信仰心の強い人たちが多く暮らす地域では、聖母や天使の出現を信じている人(ほとんど中高年です)がいます。「ほら、よく見て。ここにマリア様がいるでしょ!」とどこかの空を映した写真を見せられた事がありました。私にはそこに映っているのはただの積乱雲にしか見えませんでしたが、彼女にとってそれは聖母の出現なのだそうです。そういわれてみれば、雲の影の加減で女性の立ち姿に見えない事もないのですが……。でも良く見るとその写真には地表近くに小さな黒い点のようなものが2つ並んで映り込んでいました。わたしは思わず「ちょっと待って、これの方が気になる!」とその2つの点を指差したのですが「何言ってるの、こんなのただのゴミよ!」とあっけなくあしらわれました。

キリスト教の国で育った彼女とUFO番組を見て育った私の示す興味の違い。何を信じるか信じないか、何が見えるか見えないか、育った環境の影響力といものは侮れません。