image

 

6月某日 ポルトガル・リスボン

 

留学先のハワイからイタリアに帰省中の息子と一緒にリスボンへ。既に数日が経ちますが、毎日ポルトガル伝統の甘いお菓子ばかり食べているせいで虫歯が心配になり、ネットで『虫歯』という項目のある記事を見つけてはなんとなく眺めていました。

 

すると『口腔崩壊』という気になる言葉が目に入って来たので検索してみると、昨今の日本の社会事情が影響して歯医者になかなかいけない子供たちがいる、ということが記事になっていました。乳歯が全て虫歯、または歯肉炎を発症していてパンも齧れない、といった症状の子供たちも少なくないと書かれているので、昔はどうだったっけと自分の記憶を手繰ってみました。

 

私も子供の頃から虫歯に悩まされ続け、しっかり磨いているつもりなのにその効果がなかなかあらわれず、母から「うちの家系は全員歯が弱いから遺伝かもしれない」と言われたのを思い出しました。確かに骨格などによって歯の生え方は似るでしょうし、それによって磨き易いとか磨きにくい、という傾向は遺伝するかもしれません。私の歯も母や祖父母の生え方に似ていることが要因となって、虫歯になりやすくなっている、というのはあるでしょう。

 

ちなみに虫歯の主な要因は口腔環境、虫歯菌、そして食べ物の三つとされているそうですが、確かに100年前の人たちの食事環境と現代のものとでは、虫歯菌が好むという砂糖の摂取量も含め全く違います。

 

私は今までに何度か古代人の頭蓋骨というのを見て来ましたが、彼らの虫歯の少なさには心底から驚かされます。若い人ならまだわかりますが、結構年を取っていそうな人ですら、立派で丈夫そうな歯がぎっしりと綺麗に生えている、そんな数千年前の頭蓋骨をしみじみ羨ましいなと思って眺めたことが何度もありました。

 

なんせ砂糖というものが当時はありませんから(古代ローマ時代は甘味料として蜂蜜を使っていた)虫歯菌の繁殖も当然抑えられていたでしょうが、やはり食事以外の生活環境の違い、というものも大きそうです。

 

『口腔崩壊』という記事を基軸に虫歯関連の記事をいろいろ拾って読んでいくと、長時間のメディア利用、睡眠不足、朝食を抜く子供たちに圧倒的に虫歯が多いことが判明したというデータが目に入りました。

 

なにやら、自律神経を介して分泌される唾液の量や質に一因があるそうです。早い話が、精神的にリラックスしているとき人の唾液はサラサラで量も多くなるのに対して、緊張したり落ち着いていないときは、交感神経活動というのが活発になって唾液の分泌量が減り、しかも質もドロドロしたものになるというではありませんか。

 

唾液には虫歯を抑制する作用があるそうで、量が減れば当然虫歯になる確率は増えます。そして現代人は昔の人に比べて、唾液の分泌量がかなり少なくなってきているらしいのです。つまり皆、日々某かの緊張を強いられて、リラックスとは縁遠い暮らしをしている、ということになるわけです。

 

image

阿部寛さんの前でゴロッと歯が3本抜けた

長時間のメディア利用による精神的な興奮、睡眠不足。そして朝ご飯を抜く。こうしたことが全て唾液の分泌量に影響を及ぼしているらしいのです。

 

歯科医師のコラムみたいになってしまいましたが、なんせ私も“虫歯悩まされ歴”が長く、ありとあらゆる治療や対処をほどこしつつも、未だに歯のトラブルが発生しやしないかと心底びくびくしているところがあります。虫歯は治療をすればその場では傷みや損傷から解放されますが、歯自体はダメージを重ねれば重ねるほど弱っていくだろうし、よりによって歯は目立つところに生えている。背中やお尻とかに口が付いているのだったら正直どうでもいいのかもしれませんけども、そうではない、というところが曲者です。

 

経験をした方は沢山いらっしゃるとは思いますが、咀嚼中に急にゴリッと異様な感触があり、その異物を口の中から取り出すと欠けた歯や差し歯だった、というあの、焦りとがっかりが入り混じった感覚は形容し難いものがあります。今までで一番忘れられないのは、実写版『テルマエ・ロマエ』のロケ初日の前日に、ローマのレストランでキャストの俳優さんたちと全員でご飯を食べていた時の出来事でしょう。

 

肉かなんかを口に入れて噛んでいる時に、ゴリっではなく、もっとボリューム感のあるゴロっとしたモノが舌の上に落ちた感覚がありました。私は目の前にいる阿部寛さんや北村一輝さんや宍戸開さんにわからないように、何かに笑う振りをして口に手をあて、そのままトイレへ直行しました。すると、前歯の差し歯とブリッジを含む正面の歯3本がいっぺんに抜けてしまったのです。

 

“茫然自失となる”というのは、ああいう感覚を言うのでしょう。まるでコントを演じる芸人みたいな笑顔を何度か鏡に映し、絶望感に打ち拉がれ、でもいつまでもトイレに閉じこもっているわけにもいかないので瞬時に対策を考えました。運良く、そこで咀嚼さえしなければ、取れた歯はどうにかくっついている振りをしそうなので、そのままテーブルに戻って何事も無かったかのように振る舞いました。

 

宍戸開さんにだけは直後にこの顛末がバレましたが「でもオレなんて取れた差し歯を呑み込んで、下から出てくるのを待ってから妻と探したよ」という発言に、ほんの少しだけ勇気を貰ったのを覚えています。

 

こんな小さな身体の部品ひとつに翻弄される人間の身体は、非合理と言うしかありません。これだけ雑食で歯を日々酷使しているのだから、いっそサメみたいに使っている歯がダメになったら抜けて、後ろの列に並んでいる予備の歯がどんどん前に出てくるようになればどんなに楽でしょう。見た目はちょっと怖いかもしれませんけど、人間の歯の進化と食生活や環境の進化(というか変化)がシンクロしてくれない限り、我々はまだこれから当分先もこの虫歯に悩まされ続けていくに違いありません。

 

とりあえず、虫歯の増殖を抑制してくれるというサラサラの唾液がたっぷり分泌されるような、身体の芯からリラックスした穏やかな暮らしをまずは心掛けたいものです。きっとできないけど。

関連カテゴリー: