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11月某日 東京

 

先月イタリアから日本へ来て間もなく、仕事先の北海道で美しく色づき始めた紅葉を目にし、その10日後にまた仕事で訪れた青森でも紅葉がまっただ中、またその10日後に講演会のあった山形でも山々は紅葉に彩られ、一週間後にライブの為に向かった福島の温泉地も紅葉中……。そして今、私が滞在している東京も近所の公園の樹木はまさに秋色に染まり、日本に来て以来、実に1カ月以上も紅葉を見続けている私ですが、やはり日本の樹木の秋の色は他の国と比べて特別だと痛感した次第です。

 

とあるイベントでお会いした某有名イタリアファッションブランドの社長さんが「日本はサクラの時期も美しいけど紅葉も特別だと聞いているから、ちょうどその時期を目指して西日本の旅行を企画している」と話していました。イタリアにも紅葉はありますが、日本ほど色とりどりではありません。色彩がドラマチックというのか、そんな紅葉の景色をSNSなどでアップすると、普段よりも多くの外国の友人たちの“いいね”が付きます。

 

葉っぱが美しく色づくにはやはり気象条件が大きくかかわっていて、まずは沢山日光を浴びる必要があることから好天は必須。そして最低気温が8度以下の日が続くこと、乾燥した空気、昼夜の寒暖の激しさなどが上げられるようです。気温が5?6度以下になればさらに紅葉もぐっとその彩りを増すそうですが、確かに先週は震え上がるような寒さだったかと思うと、いきなり上着を脱ぎたくなるような暖かさだったり、美しい紅葉を作り上げる温度調整の厳しい日が続いています。

 

紅葉が美しくなるのは結構なのですが、こうした安定しない気温の中で過ごしていると、我々人間は着るものに困ってしまいます。私は今回の日本滞在がいつもより長かったので、わざわざイタリアからダウンを持ってきましたが、正直今の段階ではまだそれを身につけるに至っておりません。しかし、うっかりぽかぽか陽気の日中の日差しにそそのかされて薄着で外出して帰宅が遅くなってしまった日などは、思いがけない寒さに身をすくめ「ダウンを来てくればよかった!」と思うこともあります。かと思うと、気温10度半ばに満たないのに、半袖短パンで闊歩している元気そうな外国人を見ると、厚着をしている自分が大袈裟に思えてくるし、体感温度というのは本当に人それぞれだと言うしかありません。

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祖母も祖父も九州の人間なのに、母は暖かいところが大嫌いで……

私は東京生まれで幼少期を北海道で送っていますが、当時から寒いのが大キライで、いつも母に「なんでこんなに寒い場所に移り住んだの!」と文句を言っていたものでした。しかし寒い所好きの母は北海道の気候が合っていたようで、少しでも雪が降ると物置からスキー用具を取り出したりして、わくわくしていたのを思い出します。かたや私は南国の音楽が流れる自分の部屋の窓ガラスに油性ペンでハワイやカリフォルニアの景色を描き、壁には旅行代理店から貰ってきた南国のツアーパンフレットの写真を貼りまくって、現実逃避をはかっていました。

 

祖母は九州の人間ですし、祖父の母も九州の人なので、私たち親子の中には南国を嗜好して当然の血が流れているはずなのですが、何故か母は暖かいところが大嫌いで、以前一緒に連れていった南太平洋のフィジーの小さな島では「暑過ぎて頭が働かない、文化的じゃない、食べ物がおいしくない」と不平不満三昧でした。ちなみにそんな彼女の世界で最もお気に入りの場所はポーランド。何度も旅に誘われましたが、一度も行ったことはありません。

 

真冬の北海道では、氷点下の寒い日に薄着で通学する学生を今でもみかけますが、私がいた時代も寒いからといって大袈裟な防寒具を身につけているような学生はいませんでした。女子にいたっては学校で定められていた真っ黒なストッキングがダサいとされていて、皆ナマ足に長靴。いや、長靴もダサいわ、と思うスタイリッシュ系はデザートブーツという、踝までの皮靴やローファーで登校。ツルッツルの路面をあの靴で皆どうやって歩いていたのかが今となっては謎ですが、私はそんな気温の中で自分のファッションセンスを意識するゆとりなど全くなく、分厚い真っ黒のタイツにその上からさらに膝までの靴下をはき、コートも冬期の屋外作業労働者用(メンズ仕様)のものを着て通学しておりました。見た目よりは体感温度優先順位、というのは今も変わりません。今はまだ厚着の服を着るか着まいかで悩んではいますが、ここよりも寒い北イタリアに帰れば連日ダウンは手放せなくなるでしょう。

 

数日前に北海道では雪が積もったというニュースを聞いて、早速母に連絡をしてみたところ、「さっきピエラ(ゴールデンレトリバー 17歳 メス沖縄生まれ)を連れて雪の振る中散歩に行ってきたけど、もう凄かったわ。犬は喜び庭駆け回りでおおはしゃぎよ」と声を弾ませています。雪で大はしゃぎをする84歳の老女と17歳の老犬。除雪の面倒くささはありますが、結局、毎度冬の到来をこんなふうに受け入れられる彼女の性分が羨ましい限りです。

 

まあ、美しい紅葉も一面の雪景色も堪能するに越したことはありませんから、次回の年末帰国時には私も久々に雪の中の犬の散歩をトライしてみたいと思います。雪まみれになったあとは近隣の温泉にでも出向いて体の芯から温まればいいのです。きっと冷えた体に沁み入る温泉はひときわ素晴らしいはず。そう考えると、雪や冬の寒さもまあ悪いものではないですね。