およそ5000年前のことです。今が西暦2000年を少し超えたところですから、紀元前約3000年という時代ですね。それはシュメール人による文明が誕生し、都市国家というものが初めて建設された、言わば世界史の第1ページに当たります。実は、この時代の遺跡からターコイズでつくられたビーズが見つかっているのです。つまり、ターコイズは世界史のはじまりと共に人類に使用された、最も古い宝石のひとつと言えます。事実、紀元前2923~2915年に在位していたファラオ・セメルケットの時代には数千人の人夫を動員してターコイズを採掘していた記録があるそうですから、驚きです。ターコイズがいかに古くから使われた宝石であるか、さらに、裏付けるものがありますよ。紀元前1844~1837年に在位していたファラオ・セソストリス二世の胸当てには、ターコイズが見事に装飾されているのです。これは現在ニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されています。

Stone_080507ところで、シュメール人による都市国家はやがてメソポタミア文明を形成していきます。そして、その地を核に華開いた強大なペルシアが東西交易のメッカとして栄え、あらゆる物資の往来が活発化。その中で、国を代表する石としてターコイズの交易も拡大していきました。本家本元のペルシアでは、ターコイズは王が座る玉座をはじめ位の高い人の印章、刀剣の柄、馬具、壺などのあらゆる装飾品に用いられるとともに、邪視を防ぐお守りとしても珍重されていたようです。一方、インドでもターコイズは貴重な石とされました。水浴時にこの石を身につけると蛇にかまれないとか、新月にこの石を見ると壮大な富が得られるといった言い伝えがあります。チベットでもターコイズは幸運の石とされ、身につけると伝染病を防ぎ健康をもたらし、災いを防ぐと信じられていました。

また、ターコイズにはもう一つの系譜があります。それは西暦200~900年の古代中米文明の中に見られます。ターコイズが重要な石として扱われ、モザイクを代表とする洗練された工芸品が数多く創り出されているのです。15~16世紀にメキシコの中南部で大帝国を築いていたアズテカ族は、最高位の太陽神、アズテカの火の神「シウテクトリ」を信仰しています。実はこの「シウテクトリ」が「トルコ石(ターコイズ)の王」という意味なのだそうです。いかにターコイズが古代中米においても珍重されていたかが伺えますね。

またその後、ネイティブアメリカンの人々の間でもこの石は多種多様な装飾品として利用されてきました。それだけでなくターコイズは護符としても珍重されて、彼らのまじない袋にはいつもこの石がしまわれていたと言われます。なお、1850年代にはメキシコの金属細工職人が銀細工の技術をネイティブアメリカンのナバホ族に伝授。そのお陰でナバホ族はスペイン系アメリカ人のデザインをネイティブアメリカンの伝統的なデザインに融合し、個性的な「インディアンジュエリー」を創り出しました。これは現在でも世界的なファンを持つほど有名なジュエリーですから、ご存知の方も多いでしょう。

今回のお話はこのくらいにして、ターコイズの今日的なパワーストーンとしての効用は、次回お話しすることにしましょう。

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