サファイアはルビーと同じ組成の鉱物「コランダム」であるというお話は、ルビーの解説のところですでにお話ししました。でも、このような科学的分類が確立されたのはせいぜい18世紀後半のこと。それより以前はそういうことは分からなかったのですよね。でも、ルビーもサファイアも遙か昔、紀元前から「極めて神聖な石」として珍重されてきました。その事実を象徴する物語としては、旧約聖書の「出エジプト記」に記された「裁きの胸当て」が有名です。Stone_080708

この胸当ては俗に「アーロンの胸当て」とも言われているものです。アーロンというのはモーゼの兄で、唯一神ヤハヴェから数々の契約を言い渡されました。そのひとつに神に仕える者の装束として、次のような体裁の胸当てをするようにというものがありました。それは、金、紫、紺といった糸で縒った布に1列3石、計4列、合計12種類の宝石を並べた胸当てです。その中にラピスラズリやトパーズ、エメラルドと並んでルビーとサファイアも入っているのです。

ここでちょっと私見を述べさせていただきますと、中世のころまではサファイアはラピスラズリのことを指していたという解説にしばしば出会います。でも上記の通り、「アーロンの胸当て」に取りつけられた宝石は、サファイアとラピスラズリという具合に石がきちんと区別されています。ということは、「サファイア=ラピスラズリ」説は、正しいとは限らないように思えるのです。

さて、鉱物としてのサファイアの素顔に戻りましょう。ダイアモンドに次ぐ硬度9という硬さを持つ「コランダム」のうち、鮮烈な赤い色をした石だけを「ルビー」と言います。「コランダム」には当然いろいろな色の石がありますが、赤以外の「コランダム」を「サファイア」としています。ところが、「サファイア」の語源を知ると、ちょっと矛盾が生じることに気づきます。と言うのは、「サファイア」という名称の語源は、ラテン語の「sapphirus」、ギリシア語の「sappheiros」でいずれも「青色」を意味する言葉です。つまり、赤以外の「コランダム」を全て「サファイア」と言うのなら、ピンクの「コランダム」の場合は「ピンク色の青い石」となり、黄色の「コランダム」なら「黄色の青い石」となってしまいますよね。

つまり、こうした矛盾が起こる遠因は、鉱物学的な研究がなされるずっと以前には「青い石」は「サファイア」とされてきたことにあります。ところが、「コランダム」を化学的に分析し、新しい分類をした時点になって、「サファイア」の名称由来はどこかへ飛んでしまったのでしょう。そのため、青以外の「コランダム」も「サファイア」と呼ぶようになったのではないでしょうか。

では、サファイアにはどんな色の石があるのでしょか? 次回は宝石としてのサファイアの世界を覗いてみましょう。