「先日、渡辺淳一先生のお墓参りへ秘書の方と行ってきました。ソメイヨシノが散り際で、桜の花びらがまるで絨毯のように敷き詰められて……。墓前で手を合わせていると、花びらが舞い降りてきて、『桜の時期になったら俺のことを思い出してくれ』と、先生がそうおっしゃっているように思えました」

直木賞作家・渡辺淳一さんが前立腺がんで亡くなったのは昨年4月30日。不倫愛の代名詞となり、’97年の流行語大賞にもなった『失楽園』は同年にテレビドラマ化。ヒロイン凛子を、体当たりで演じたのが川島なお美(54)だった。

「私にとって渡辺先生は“恩師”でもあると同時に、作品を通しての“戦友”でもありました。『失楽園』(日本テレビ系)、『くれなゐ』(’98年・日本テレビ系)そして映画『メトレス・愛人』と、渡辺文学のヒロインを3人も演じさせて頂きました。渡辺文学のヒロインたちはみな、芯は強くても女性的で、はかなげで、思わず男性が守ってあげたいと、魅かれてしまう女性たちです。そういう女性たちを生きることができたのは、感謝の気持ちで一杯です」

『失楽園』には大胆なベッドシーンも多かったが、川島は体当たりで熱演し、平均視聴率20%以上を記録した。ドラマが注目されるなか、渡辺さんと川島の男女関係も取沙汰されることもあった。

「当時、私はドラマについて書かれた記事を読む時間もないくらい忙しかったんですが、中にはバッシング記事もあるとは気づいていました。落ち込んでいる私を、先生はこう励ましてくださいました。『それは女優としての勲章だ。こんなによくも悪くも話題にされて僕は羨ましい』と……」

 川島は渡辺さんを「平成の光源氏」と呼んでいる。

「芸者役を演じるときに、先生に相談したら、新橋のお座敷に連れていってくださり、そこで芸者さんからお酌の仕方や作法を教えてもらったこともあります。送っていただく帰りの車の中のことです。私はうとうと寝てしまっていたのですが、ふと気が付いたら《やっぱり君がいちばん素敵》と、芸者さんにハートマーク入れてメールしてらした(笑)。そういうところが、光源氏なんですよね。あるパーティーで久しぶりにお会いしたときには耳元で私に『やっぱり君がいちばんキレイだね』って。先生はきっと会場中のすべての女性におっしゃってるんだなと確信しましたよ(笑)。老舗のバーやお茶屋さん、どこへいっても『淳一先生、会いたかったわ』と、多くの女性たちが、恋人の様に先生を待ちわびているんです。こんなふうに人に愛された作家さんを、ほかに存じあげません……」

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