平日の昼下がり、あまりにも日常的な時間のなかで、チャンネルを合わせれば、激情の世界が広がり、女はいつだってヒロインになれる……。そんな東海テレビが制作し続けた「昼ドラ」が52年の歴史に幕を下ろす。
「『真珠夫人』は放送が進むにつれ反響が大きくなり、視聴者メールのサーバーがパンクしたと報告があったんです。’02年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテン入りも果たしました」
そう語るのは、社会旋風を巻き起こした『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』にも関わっていた西本淳一プロデューサー(61)。昼ドラお得意のドロドロの愛憎劇、両作品とも現実的にはありえないぶっとんだ設定、『真珠夫人』のたわしコロッケ、『牡丹と薔薇』の牛革財布ステーキなど、愛する夫の浮気を確信した妻が食卓に出すトンデモ料理もブームの起爆剤になった。
「脚本を担当していただいた中島丈博先生との打ち合わせでは『話の流れ上、必然だと思われることを誇張して、面白くやりたい』とお話ししていました。普通だったら絶対しないけれど、嫉妬でエスカレートしていく感情を具現化したのが、飛び道具のような料理につながったんです。懸命になるがゆえの人間の滑稽さを表しているんですね」
しかし、ストーリーの流れが不自然すぎるとチャンネルを変えられてしまうため、演出は試行錯誤の連続だったという。『牡丹と薔薇』でぶっとんだ役を見事に演じ切った小沢真珠には鬼気迫るものがあったが−−。
「小沢真珠さんはすぐにキレたり暴力を振るったりする迫真の演技が多かったので、彼女を知らない人からは『本人もああいう人?』とよく聞かれましたね(笑)。もちろん違いますよ!?朝8時からわめき散らしたり泣き叫んだりするシーンを撮影することも多々ありました。一日中、泣いたりたたかれたりしている大河内奈々子さんもキツかったと思います。皆さん、演出の意をくんでくださり役に没頭していただいたので、本当に助かりました」
昼ドラの出演者は声をそろえて「本当につらかった」と当時を振り返るが、スタッフもかなりハードだ。
「当時はリハーサル1日、ロケ1日、スタジオ収録4日、休みの1日は準備という1週間のスケジュールで進みます。撮影は4カ月続くので、スタッフも満身創痍状態ですね。本番中に立ったまま寝ていたスタッフがバターンと倒れて、その音でNGになってしまったこともありました」