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(写真:篠山紀信)

 

瀬戸内寂聴(95・以下、寂聴)「あなたが寂庵に来たのは7年前で、まだ23歳でしたね。すっかりなじんで、ずっと前から一緒にいたような気がするけど」

 

瀬尾まなほ(29・以下、まなほ)「最初にお会いしたとき、仕事の内容をうかがうのかなと思っていたら、彼氏のことや、仕事に関係のない世間話ばかりして」

 

寂聴「『小説は読む?』って聞いたら、『あんまり』と、首を横に振ったから(採用を)決めました。文学少女はたいてい掃除や台所仕事が苦手で困ってしまいますからね」

 

まはほ「実は私、働く前は、先生のこと小説家って知らなかったんです。お坊さんってことは知っていたんですけど」

 

瀬尾まなほさんが寂聴さんの秘書になったのは’11年3月、大学を卒業してすぐのことだった。その2年後には、事務所のベテランスタッフたちが、「先生にこれ以上ご負担をかけたくない」と、退職していった。1人残された瀬尾さんは当時25歳。最初は戸惑いも多い日々だったが、いまや寂聴さんと66歳年下の秘書の息の合った掛け合いは、出版関係者たちからは“寂庵名物”とも呼ばれている。瀬尾さんが、7年の日々についての著書『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(光文社・11月15日発売)を出版したのを機に、この特別対談が実現した。

 

寂聴「秘書は簡単な仕事ではありません。外出で車いすを使うときも、行く先々で移動しやすいように事前に話をつけてきたりと、先回りしていろいろ動いてくれるから、本当に助かっています。よたよたした私を連れているのに、どこに行っても、私を困らせたことはない。勘がいいんでしょうね」

 

まなほ「先生に褒められることはあまりないので、今日はもっともっと、言ってください(笑)」

 

寂聴「ハハハ。私は年を取って耳が遠いから、声がだんだん大きくなっているでしょう。まなほも声が大きいから、新幹線の中でも大声でしゃべっている」

 

まなほ「2人でいると、すごい大声になってしまいますよね。あれもこれも、秘密のガールズトークと思っていたら、筒抜けだったのかなぁ……ハハハ」

 

寂聴「ガールズトークといえば、寂庵に来て間もない日の朝、起き抜けの私を見つめて、『月のものが止まった』と思い詰めた目で言ったことがありましたね」

 

まなほ「ああ、その話!」

 

寂聴「ふふ。『あなた、恋人と別れたばかりだったわよね。子どもはどうするの』って、本気で心配したのよ。そうしたらね……」

 

まなほ「先生、『今日は4月1日ですよ』って」

 

寂聴「『ああ、あ』と、ため息をついて、私は笑いだしてしまったわね。66も年の差があるので、会話がどうしてもトンチンカンになるけど、まなほの長所は『優しい』のひと言につきるわ」

 

まなほ「先生も、いつも人のことばかり考えていて、優しすぎるくらいですよ。おかげさまで、私は祖父母にも以前より優しくできるようになりました。昔はいろいろと周りに迷惑や心配をかけましたが、先生の下で大きく成長をさせていただいて、家では、『寂聴さまさまだ』って言われています」

 

寂聴「ハハハ! でもね、そんなまなほに、ひとつだけ苦手なことがあるのよ」

 

まなほ「何ですか? 気になる〜」

 

寂聴「朝から『締切り!』と目をつり上げているときは、ちょっと怖くて苦手ね」

 

まなほ「先生は気がいいから、親しい編集者に依頼されたら義理で何でも引き受けちゃうところがあるんです。執筆ペースが落ちていますから、もう少しお仕事をセーブしていただかないと私は胃がキリキリ痛むのです」

 

寂聴「最近は徹夜して原稿を書きながら、机に突っ伏して眠ってしまっていることもあるから、仕事をしながら死ねたらいいわね。起こしに来たあなたは、揺り動かしたら私が死んでいて、びっくりするかもしれないけれど」

 

まなほ「『死んじゃイヤっ』って、くすぐって、生き返らせますからね(笑)」

 

寂聴「でも私は、まなほがお嫁に行くまで死ねないのよ。まなほの結婚式には、イケメンの男のコに両手をとってもらって、参列すると決めてるから。ねぇ、いつになるのかしら?」

 

まなほ「好きになるスイッチがなかなか入らないんですよ」

 

寂聴「いいなあと思う人を好きになるのではなくて、好きになると、ちょっとイヤだなと思う部分も辛抱できるようになるものなのよ。苦手なところを、好きという思いが上回るの」

 

まなほ「はい。でも先生は結婚に失敗していますでしょう。4歳の子どもを置いて不倫の恋に走られましたし、ダメ男が好きだと公言されてます。ですから、先生の恋愛に関するアドバイスは『うーん』って思います(笑)」

 

寂聴「ハハハ……」

 

まなほ「万が一、不倫とか……そんな経験をすることになったら、それはもう、真っ先に相談します」

 

寂聴「そうね(笑)」

 

 

【著者略歴】

瀬尾まなほ(せお まなほ)

瀬戸内寂聴秘書。1988年2月22日兵庫県神戸市出身。京都外国語大学英米語学専攻。大学卒業と同時に寂庵に就職。3年目の2013年3月、長年勤めていたスタッフ4名が退職(寂庵春の革命)し、66歳年の離れた瀬戸内寂聴の秘書として奮闘の日々が始まる。瀬戸内宛に送った手紙を褒めてもらったことにより、書く楽しさを知る。瀬戸内について書く機会も恵まれ、2017年6月より『まなほの寂庵日記』(共同通信社)連載スタート。15社以上の地方紙にて掲載されている。困難を抱えた若い女性や少女たちを支援する「若草プロジェクト」理事も務める。大好物は「何よりも胸をときめかせる存在」というスイーツ。座右の銘は「ひとつでも多くの場所へ行き、多くのものを見、たくさんの人に出会うこと」。

 

 

『おちゃめに100歳!寂聴さん』

 

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(写真:篠山紀信)

 

著者:瀬尾まなほ(瀬戸内寂聴秘書)
価格:1,300円+税
判型:四六版ソフト/272ページ
出版社:光文社

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