「携帯お貸ししようと…」故・安野光雅さんと美智子さまの絆
画像を見る 美智子さまを感動させた『橋をかける』と『バーゼルより』の装画。

 

■「もっと自由になって」美智子さまにメッセージ

 

檀さんも平成のころ、上皇ご夫妻から御所に招かれたことがある。檀さんは’08年にNHKの『日めくり万葉集』の朗読を担当していたが、上皇ご夫妻はこの番組を毎週楽しみにされていたのだ。

 

安野さんから美智子さまとのエピソードを聞くことも何度かあったという。

 

「国際児童図書評議会(IBBY)の世界大会でビデオ上映された上皇后さまの講演を本にした『橋をかける』について、安野さんはこう話していました。『本の装丁に麦畑を描いたのですが、上皇后さまはその講演で、胸に麦のブローチを着けられていたことをあとでお聞きしました。上皇后さまがお母さまから贈られた思い出の品だったそうです』と。まったくの偶然だったといいます」

 

上皇后さまの信頼の厚かった安野さんだからこそ言える言葉もあったのではないか、と檀さんは振り返る。安野さんは檀さんに、こんな話をしたこともあったという。

 

「あの方は何かとご不自由がおありだと思う。ご自分の携帯電話をお持ちになっても、もしかしたら盗聴されてしまうかもしれない。だから、上皇后さまに僕の携帯電話を使ってどこでもお好きなところへかけていただこうと、電話をお貸ししようとしたこともあったんです」

 

安野さんは、誰に対しても分け隔てなく接し、ユーモアにあふれた人だったという。

 

「あくまで私の想像ですが、上皇后さまも、安野さんのそういったところが心地よかったのではないでしょうか」(檀さん)

 

安野さんは3年前、上皇ご夫妻にこんなメッセージを送っていた。

 

《皇居のお庭は、我々の庭に比べればうんと広いけれど、両陛下が自由にいられる場所があそこだけだとしたら、狭いと感じました。来年、退位されますね。とにかく、自由になっていただきたい》(『朝日新聞』’18年8月23日朝刊)

 

長年にわたり、歌や絵本を通じて魂を通わせていた美智子さまと安野さん。美智子さまにとって、安野さんと語り合う時間こそが心の“自由”を感じられるひとときだったのかもしれない――。

 

「女性自身」2021年2月9日号 掲載

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