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94歳で短編集「忘れられた傘の会」を出版した豊島清子さん=24日、石垣市

 

【石垣】94歳の“作家”が、沖縄県の石垣島で執筆活動にいそしんでいる。豊島清子さん=石垣市野底=は、書きためてきた短編小説をまとめて「忘れられた傘の会」(ボーダーインク)を9月に自費出版した。読書好きが高じて、70歳から始めた創作活動。大正生まれの自由な発想に魅了される人が、静かに増えている。

 

幼少時から“本の虫”だったという豊島さん。「(物語を)書いてみたいな」という思いは抱いていたものの、30代で多良間島から石垣市に移り住み、農業や看護助手として忙しく過ごす日々。退職後にようやく物語の執筆を始めることができた。

 

「自然に思い浮かんだことを文章にしていく」と、ひらめきを大事に執筆するのが豊島さんのスタイルだ。短編集に収められた作品も、昔話風の物語や幻想的な世界を描いた物語、怪奇さを漂わせる物語などテーマはさまざま。「あるのは何でも読む」と、ジャンルを問わずに本を読み続けてきたことが、多彩な表現を支える。

 

一方で、自身の思いが作品に反映されることもある。表題作でもある物語「忘れられた傘の会」では、60年以上前に相次いで亡くなった自身の父親と息子に重ねた登場人物が、幻想的な世界で生き生きとした姿を見せる。「あの世で一緒に楽しく暮らしているだろうか」。そんな思いを作品に込めて執筆した。

 

発行元のボーダーインクによると、一部書店では再注文があるなど、同書は静かに人気を広げている。ボーダーインクの新城和博編集長は「幅広い作風だ。70歳から始めた初々しさもありつつ、本が好きなんだなと分かる作品たちだ。『忘れられた―』のように、個人の優しい気持ちから生まれた作品もある」と評価する。そして「何でも始めるのに遅いことはないのだなと感じる。次回作にも期待したい」とエールを送る。

 

豊島さんに次に執筆したいテーマを尋ねると「自然に浮かぶ」と、やはりこだわりはない。ただ「書くのは全部楽しい。元気でいる限りは書き続けたい」と創作意欲はあふれている。自由気ままな執筆活動は続く。(大嶺雅俊)