さらに発展して羽生が考えていたのが、モーションキャプチャ技術をフィギュアスケートのAIによる自動採点に生かすこと。

 

「たとえば、フィギュアスケーターのなかには、回転が足りないのに、4回転に見せかけるような、ごまかしがうまい人もいるようで。高度な技だと、審判が完全に正確なジャッジをできていないときもあるみたいなんです。羽生さんは“見えないところでごまかして跳ぶといったことも行われているけれども、それはよくない”と言っていました」

 

ルール違反でも審判がOKといえばセーフ、と考えるスポーツ選手もいるものだが……。

 

「“それじゃいけない。ちゃんと規定があるんだから、それを順守して試合に臨んでほしい”と」

 

史上初の4回転アクセルを目指す羽生としては、“ずるジャンプは許せない!”という気持ちは誰よりも強いのだろう。

 

こうした“正義の魂”が込められた研究は、卒業論文として7月に書き上げられた。

 

「羽生さんが卒論を本格的に書き始めたのは3月ごろでした。幸か不幸か、コロナの影響で5?6月のアイスショーが中止になって、卒論に集中できたのでしょうね。出来も非常によく、私の受け持ちのなかでは1番の成績をつけました。文章もうまいんです。

 

私自身、彼の卒論で新しい発見もありました。曖昧な部分もあるフィギュアの採点をAIを使ってクリアにする。この研究を続けていけば大がかりな装置も必要なく、普通のテレビカメラでもなんとかなるという可能性を示してくれました。これは本当にフィギュアスケートの歴史を変えるような研究になるのではないかと思います」

 

研究段階とはいえAIによる採点は本当に実現可能なのだろうか。

 

「あとはもうデータさえとれれば技術的には実現できます。羽生さんだけでなく何十人かの選手を集めて、モーションキャプチャと映像でいろんな技のデータをAIに学習させるんです。それをスケート連盟とオフィシャルデータとして共有すれば、どこでも使えるようになるでしょう」

 

次ページ >「先生に褒められたのがうれしかった」

【関連画像】

関連カテゴリー: