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フランス語がいつまでも上達しません。もう、駄目だ、と何度も諦めてきたのですが、よく考えたら、息子はフランス人じゃないですか。もちろん、血は日本人ですけど、彼はフランス生まれ、フランスの教育を幼稚園から12歳まで受けています。日本語は喋ることが出来ますが、圧倒的にフランス言語人です。もっと言えば、考え方も、生き方も何もかも、外見以外フランス人なんです。このまま大学を卒業し、こちらで就職、フランス女性と結婚となれば、フランス人化は免れないでしょう。

それで考えました。欧州での唯一の身内であるパパとしては、もう少しこの国と向き合わないとならない、と。そのためには言葉なんですね。まず、家庭教師だ、と思ったのですが、今までも十分に試しているので、それ以上の成果は望めません。で、ふと凄いアイデアを思いついたのです。息子が先生になればいいんじゃないのかって(笑)。

息子自身、言語を獲得するうえで凄く苦労しています。パパがどこで苦しみ悩んでいるのか、見抜くのも簡単なはずです。きっと教えるのも上手でしょう。「聞くは一時の恥」という諺があります。思い切って相談してみたんです。最初は、やだ、と首を真横にふりました。

「でも、いつまでもフランス語を喋ることが出来なけりゃ、みんなに馬鹿にされてしまう、それでもいいかな?」

と言いましたら、

「それはよくない。パパが馬鹿にされるのは嫌だ」

と言い出しまして、教えて頂けることになったのです(笑)。

「ならば、パパ。これを1冊暗記して」

彼が持ってきたのはフランス語の動詞の活用本でした。こちらの小学生が使う教科書ですね。1つの単語の動詞の変化が1ページごとにまとめられています。気が遠くなるほどの量です。「これ1冊まるごと?」

息子が笑いました。

「パパ、ここは避けて通れないんだよ。パパのフランス語がおかしいのは、基本がなってないから。逆を言えば、これさえマスターしちゃえばどこへ出ても馬鹿にされることはない。ぼくは親に教えられることもなく、ほらこのとおり、自力でマスターしたじゃない。パパだって出来るさ」

フランス人の子供たちに交ざり、果敢に頑張っていた息子の姿を想像しました。私は納得しました。そして、勉強をスタートさせたのです。しかし、まさか、12歳の息子が自分の教師になるとは(笑)。人生とはまことに不思議なものでありますね。

さて、今日は皮目パリパリの辻家の鯛のポワレ・ア・ラ・ジャポネーズをご紹介します。

材料、鯛のフィレ1枚、塩・こしょう、小麦粉、オリーブオイル、生クリーム、醤油少々、黒七味、イクラ。まず、水分をよくとったフィレの皮目に塩・こしょうをし、3~4時間冷蔵庫で保管します。テフロン加工のフライパンを弱火で温め、多めのオリーブオイルを引き、鯛の皮目に小麦粉を薄く万遍なく塗したものを、皮目を下にして、とにかく弱火から中火の間(基本弱火です)で様子を見ながら火を入れていきます。皮パリのコツは弱火で辛抱強くです。絶対にひっくり返しません(魚臭さが移るのを嫌うため)。20分とか、状況によってはもっとかかります。白身側に火が入ってくる様子は見て分かります。全体が白くなれば完成。火を入れている間、ボウルに生クリームを大さじ3くらい入れ攪拌し、泡立てます。オリーブオイル少々、醤油少々、黒七味2ふり程度、塩少々を入れると、ガトーショコラのチョコ生クリームのような感じに。焼きあがった鯛の横にスプーンで添え(皮の上に置くと溶けてしまいます)、少しイクラを散らしましょう。豪華な日仏鯛ポワレの完成ですよ。奥様方の土曜日のランチなどにいかがでしょうか?

ボナペティ!

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

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