沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、同市嘉陽沖に生息しているジュゴン1頭(個体A)が2カ月以上確認されていない。11月28日の環境監視等委員会で沖縄防衛局が報告した。防衛局は海草藻場にジュゴンの食(は)み跡があったとして工事の影響を認めていないが、識者は「工事による騒音がうるさい日中は大浦湾に居られなくなり、夜に餌を食べに来ているのではないか」と分析する。約15年前から県内で確認されていた3頭のジュゴンのうち、工事後に2頭の姿が確認できなくなった。辺野古の埋め立て承認撤回を巡る県と国との対立で、県が環境への影響を主張する新たな根拠にもなりそうだ。
辺野古周辺に生息していたジュゴンは、工事開始後、既に1頭(個体C)が行方不明になっている。県は個体Cが行方不明になったことを理由の一つとして、今年8月、公有水面埋め立て承認を撤回した。
個体Aも確認されなくなったことを受け、県辺野古新基地建設問題対策課は「県の主張がさらに裏付けられた」と述べた。今後、県の埋め立て承認撤回を巡って法廷闘争に入った場合、県が工事を止める必要性を強調する要素になり得るとの認識を示した。
一方、防衛局はジュゴンが確認されなくなった状況は工事の影響だと認めていない。琉球新報の取材に対し、嘉陽海域の海草の調査で10月は25本、11月は17本の食み跡が確認されたとして「ジュゴンが海草藻場を利用している」と説明した。
目視調査以外に実施している鳴音調査の結果を分析中だとし「環境監視等委員会で、全ての調査結果を踏まえて総合的に検討する必要があると委員から助言があった」と強調した。
だが、ジュゴンネットワーク沖縄の細川太郎事務局長は危機感を持つ。これまでの防衛局の調査で、個体Aの生息域が埋め立て区域から沖合に徐々に移動してきていると指摘。「日中は工事の音がうるさく、嘉陽から避難するようになったのではないか」と推測する。個体Aは、他の2頭に比べて嘉陽沖への定住性が強く、不慣れな場所に移動すると漁で混獲される恐れもあるという。
米国でのジュゴン訴訟を支援する吉川秀樹さんは米軍と防衛局が環境影響評価で、嘉陽沖にジュゴンがいると認識していた上で「工事の影響はない」と記述したことを問題視する。工事が始まってからジュゴンがいなくなった経緯から、県の承認撤回やジュゴン訴訟での主張を後押しするとの認識を示した。
(清水柚里、明真南斗)