つぶらな瞳で一見かわいく思えるが…(撮影/米田一彦) 画像を見る

「50年以上、クマを観察していますが、今年のこれまでのクマの出没件数は異常。これからクマの活動がさかんになりますが、史上最高レベルで警戒する必要があります」

 

そう語るのは、NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦さん(74)。秋田大学卒業後、秋田県庁に就職。生活環境部自然保護課でツキノワグマによる被害対策に携わって以来、半世紀以上にわたってクマ研究を続けてきた。

 

秋になり、全国的にクマ出没のニュースが急増している。

 

秋田県では、ツキノワグマが人里に出没する人身被害が相次いで発生。2023年度に被害にあった人は9月11日時点で19人。この7年間ではもっとも多い。福島県でも、9月に入り、クマによる人身被害が立て続けに発生。全県に発令していた「ツキノワグマ出没特別注意報」を中通りと会津地域を対象に「ツキノワグマ出没警報」に引き上げた。また埼玉県秩父市内でもクマの目撃情報があり、市内の全小中学生に鈴と笛を配布している──。

 

怖いのはヒグマだけではない!
史上3番目の獣害事件の犯人はツキノワグマ

 

ツキノワグマによる重大事故といえば、4人が死亡、4人が重軽傷を負った「十和利山クマ襲撃事件」が思い起こされる。わずか7年前、2016年5月下旬から6月にかけて秋田県の十和利山で発生した、本州史上最悪、日本史上でも3番目の獣害事件だ。

 

米田さんは事件直後、独自に調査するため十和利山に入ったという。

 

「2016年5月21日、竹藪でタケノコを採りに行っていた男性(79)の遺体を発見。第1犠牲者となった遺体は食害されていました。5月22日、第1犠牲者の遺体発見現場から500mほど離れた場所で夫婦がクマに襲われ、夫(78)はかみ傷で激しく損傷した遺体となって発見され、第2の犠牲者に。第3犠牲者は5月30日に遺体で発見された65歳の男性。複数のクマに食害されていました。第4の被害者は6月7日から行方不明になっていた女性(74)。彼女の遺体にも広範囲にわたってクマに食べられた痕があったのです」(米田さん、以下同)

 

人の味を知ったクマはほかに3頭生き残っている

 

「現場近くで射殺された雌グマの胃の内容物は40%が人肉で、形が残った耳も見つかったと言います。しかし、このクマだけでなく、4人を殺害した主犯は「スーパーK」という現場付近で目撃された雄グマだと確信し、追い続けました。「スーパーK」は事件から2カ月後に捕獲・駆除されましたが、人の味を知ったクマはほかに3頭生き残っている可能性が高いと考えています。これまで最初からクマが人を食べる目的で襲ったのは1988年に山形県戸沢村で起きた3人殺害事件だけ。近年は、秋田県以外にも、人食いグマが出現する危険性が高まっていると考えています」

 

クマに出くわしたら、どう対処すればいいのだろうか?

 

「北海道に生息するヒグマは平原を好みますが、深い森林で生きているツキノワグマは、人里、つまり自分の体がさらされる平坦な場所が嫌い。興奮状態になり、近くの森に逃げ込むために走っていきます。そこで人が立っていると、ガツンと襲われるのです。まずは、農耕地や平野では、とにかくクマに見つからないことが大事」

 

クマに出会ってしまったら柱になったつもりでまっすぐ立つ

 

過去に8回も襲われ、クマとの遭遇は数知れない米田さんによると、クマの視力はそれほど良くはないが、左右の動きには敏感。その一方、前後の動きは反応が鈍いという。

 

「手を動かしたり、急に横に移動したりするとクマも見つけやすい。山であれば木の陰、人里なら電柱の影。木や電柱と一体化することです。もし電柱がなければ、自分が柱になったつもりで真っ直ぐに立って、クマに人と思わせないことです」

 

2020年のドングリ大豊作が大量出没の原因

 

「昔は、クマは奥山で暮らしていましたが、ここ20年ほどで人里近くの里山の荒廃化が進み、木々が育って奥山のようになってしまいました。そこは大きな雄クマを恐れる若い雄クマや雌グマの格好の生息地。そもそも人と身近なところで暮らすようになっているのです」

 

その兆候は、2年前からあったという。

 

「今年出没しているクマは、体長1メートルほどの2歳ほどの若いクマ。わたしは毎年、秋田県でクマの出産数を調査していますが、2021年春に多くのクマの出産を確認しています。これは、2020年にクヌギ、ミズ、コナラ、栗などのクマが好むドングリ類が豊作だったことが深く関係しています。2021年に大量に産まれたクマが今年になって、盛んに活動しているのです」

 

さらに全国各地で記録的猛暑となったことも影響しているようだ。

 

「今夏の異常な暑さにより、クマの餌であるドングリなどの木の実が、例年よりも早く成熟して、落ちてしまっています。本来秋に食べるドングリがなくなってしまい、餌をもとめて人里にまで出没するように。冬眠する11月末ぐらいまでは栄養を摂るため、多くの食料が必要としています。普通は山の奥深くにいる大きな雄グマも、餌不足に耐えかねて下りてくることも。大きなクマが出てくれば、人を殺害したり、一度に複数人を襲うような重大事故が起きる可能性があります」

 

まさに異常事態と言える今秋のクマ出没。きのこ狩りや紅葉狩りの際は、くれぐれも注意して!

出典元:

WEB女性自身

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