「本日は、女優の梶芽衣子さんにおいでいただきました」

 

耳になじんだオープニング曲とともに、6月26日正午過ぎ『徹子の部屋』(テレビ朝日系)のゲストが司会の黒柳徹子さん(84)から紹介された。颯爽と登場した梶芽衣子さん(71)の白いスーツに対し、黒柳さんは対照的な赤い衣装。

 

続いてカメラが移動すると、両者の間のテーブルの飾り花も、まるで配色のバランスを打ち合わせしていたかのように、赤、白のバラをメインに生けられていた。その瞬間、スタジオの隅ではフラワーアーティストの石橋恵三子さん(77)が、「よしッ!」と、小さくガッツポーズをした。

 

第1回の放送から42年間、1万回以上、『徹子の部屋』の花を生けてきたのが石橋さんだ。日本のテレビ界でも草創期から活躍する「消えもの係」第1号でもある。消えものとは、テレビ番組のセットに飾られる花や食べ物など、番組が終われば消えてなくなるものを指す。

 

「実は、本番まで徹子さんとゲストの衣装は知らされません。ですから、今日のように、徹子さん、ゲストの方と、花が見事にシンクロすると鳥肌モノのうれしさですね」(石橋さん)

 

石橋さんが、翌週に収録となるゲスト7人分のリストを受け取ったのが、前週の木曜日のことだ。「この方には、どんな花が合うかしら」。ゲストの情報収集から始め、イメージをふくらませていく。

 

「いまはネットがあるから、ずいぶん便利になりました」(石橋さん)

 

翌日の金曜早朝には、都内の大田市場へ生花の買い付けへ。

 

「梶さんは50年以上活躍されている大女優ですから、やはり豪華なイメージで行こうと。豪華といえばバラ。市場にちょうどいい頃合いのバラがあったので、100本ほど買い求めました」(石橋さん)

 

土日の間、花たちはテレビ局内のキーパー(保管ケース)へ。ここで開花を早めたり遅らせたりするとき、熟練の技が試される。

 

そして月曜と火曜日で7本分の『徹子の部屋』の収録が行われ、消えもの係の準備した花が番組に彩りを添える。いや、決して添え物扱いではないことは、黒柳さんのこの発言が証明している。

 

「『徹子の部屋』のお花は、大切な第2のゲストです」

 

この言葉を胸に、石橋さんは現場では1人で花を生ける。完成まで15分程度という短時間勝負だ。鉄則は“男性はおとなしめ、女性は華やかに”。

 

「梶さんのときのバラは、400本から厳選して80本を選びました。赤や白を選んだのは、もう直感というしかないんです」(石橋さん・以下同)

 

花と同時にテーブルに用意される飲み物も、消えもの係の役割である。

 

「オーダーはさまざま。徹子さんは、基本的にゲストに合わせた飲み物を注文されます。合わせることでゲストをリラックスさせる、そんなさりげないおもてなしの気遣いも、番組のスタート時から変わりません。そのおもてなしのひとつとして、毎回違う花もあるのです」

 

第1回の放送は、42年前。それから現在まで、一度の休みもなく『徹子の部屋』と関わり続けてきたのは、いまでは番組の顔である黒柳さんと、消えもの係の石橋さんだけとなった。

 

「でも、その2人が、いまだにいちばん元気なのよ!」

 

実はかつて『徹子の部屋』の飾り花の担当者として、石橋さんにゲスト出演の依頼があったという。

 

「番組が始まって25年ほどのときでしたか。いまもそうですが、私は自分は裏方と思っていますし、そのときは丁重に辞退しました。ただ番組も1万回を超え、もしこの先、またオファーいただけたなら、私が選ぶのは大好きな匂い水仙。純白で甘い香りのその花だけを、100本くらい背の高い花瓶に生けてみたい」