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「まさか娘がオリンピックに出場できるなんて思いもよりませんでした。主人は最近まで、ほとんどルールも採点方法も知らなかったですし……」

 

そう控えめな口調で語るのは、水泳飛び込み女子・10m高飛び込みの板橋美波選手(16)の母・美智子さん(45)だ。板橋選手は高校2年生。だが、世界でも彼女以外には誰もできない大技「109C」(前宙返り4回半抱え型)をひっさげ、リオ五輪に臨む。

 

高飛び込みは、飛び込み台の上で跳躍し、回転やひねりを加えて入水する競技。入水時に波しぶきが最小であるほど美しいとされ、採点の重要なポイントにもなる。

 

“美波”という名前はまさに飛び込みの選手にふさわしいが、両親にとって、この競技は未知の世界だった。美智子さんも父・秀彦さん(47)も、全国大会の出場経験もある柔道有段者なのだ。

 

「ですから、『美波』と名付けたときも、飛び込みなんて全く頭になくて(笑)。後づけですが、海の波が光る美しさは心を落ち着けてくれますからね。そんな輝きとともに、美波が見る人を癒す存在になってくれたらと願っています」(美智子さん・以下同)

 

美波さんが飛び込みを始めたのは小3のとき。2歳上の兄と通っていたスイミングスクールで素質を見抜いた馬淵崇英コーチに勧められたのだ。14歳で出場した日本選手権で、3m板飛び込みで優勝。また昨年の日本室内選手権では、高飛び込みで優勝。このとき出した404.20点は日本女子歴代最高記録だ。

 

身長150センチと小柄だが、1日4時間、365日休みなしの練習で培われた筋肉を持つ。馬淵コーチによれば、「同年齢の女性に比べ、筋肉量が2倍ある」そうだ。小さな体に詰まった人並み外れた筋肉量と体のバランスが、109Cを成功させる鍵だという。

 

「それだけに体重制限が大切な競技です。思春期でどんどん体形が変化していく時期でも、ベストの体形をキープしなくてはならないんです。娘が体重の増減を繰り返して苦労するのを見てきました。だから私は母親として、栄養面でサポートしてきました。大学でアメフトをしている長男(18)が牛肉を食べているときでも、美波には豚肉か鶏肉を出しています」

 

そんな母に美波さんは一度だけ、「いつもありがとう」と手紙を書いたそう。美智子さんは目を潤ませる。

 

「中学卒業のときでした。簡単な文面でしたが、とてもうれしかったですね。『オリンピックでのメダル』という目標は、馬淵コーチをはじめ、お世話になっている方々のためのものです。親は何にもしていませんから。私たち家族としては美波が一試合一試合、全力で、ケガなく戦ってくれるだけで十分なんです」

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