「お客さん笑わすための落語を」女にはできないの声跳ねのけ大賞
画像を見る 客席からはあたたかな声援が

 

■ボロカスに言われた一昨年の決勝で「目が覚めた」。翌年、大爆笑をさらって見事優勝

 

入門半年後の9月6日。大阪・梅田太融寺での二葉さんの初高座は、大入り満員だった。

 

「うちの師匠は落語ファンからも正統派と言われていたので。『米二のとこの女の弟子やて、どんなやつや』と。ふだんは60人ぐらいしか入らんとこやのに、その日は200人以上もお客が入ってました」

 

大勢の前で披露したのは、古典落語の演目の一つ『道具屋』。

 

「よう、覚えてません。緊張で、もう声出すのにただただ必死で。でも、そのときは、とちらなかったと思います。その後はよう、とちりましたけど(笑)」

 

とくに思い出深いのが、入門3年目でやらかした、こんな失敗談。

 

「『牛ほめ』という演目のネタおろしの日で。それまでは、私が(ネタが飛んで)止まったときのために師匠、近くにいてくれはったんです。でも『3年目や、さすがにもういけるやろ』と、そんときはトイレに行ってもうて……」

 

そんなときに限って二葉さん、演目の途中でフリーズしてしまう。

 

「誰かが呼んでくれて師匠、ズボンをずりずり上げながら出てきてくれて(笑)。『どこや、ここらへんか?』って袖から小声で教えてくれようと。『そこじゃないです、その次です!』って答えたら、

 

『それがわかるんやったら、次も言わんかい!』って舞台上で怒鳴られて(笑)。お客さん? それはもう大爆笑。情けないんですけど、いまだに、たまに止まるんで。いまは最前列の席のおっちゃんに教えてもらってます(苦笑)」

 

女性というだけであれほど冷たかった客の目が、いつの間にか温かく感じられるほど、落語ファンにも愛されるようになった二葉さん。賞レースにも貪欲に挑んだ。なかでも狙っていたのが落語大賞。毎年のように挑戦し、じつは大賞獲得の前年も決勝に残っていた。

 

「20年は決勝の会場が東京で。お客さんも少なく、私もめちゃくちゃ緊張してしまった。自分でもあかんなと思うほどできが悪くて。結果、公開説教のように審査員からボロカス言われて。『ネタ、何本持ってるの?』とまで。『そんなんいま、関係ないやろ!』いう言葉が喉元まで出かかりました(苦笑)。もう悔しいし、情けないしで……」

 

でも、その苦い経験が初心に立ち戻る契機にもなった。

 

「一昨年は自分に期待しすぎたのと、大賞目前と思ったら賞金の50万円に目がくらんでしまって。でも、目が覚めたというか『私はなんのために落語やってんねん? お客さんを笑かすためや』と」

 

雪辱を果たすべく昨年、彼女が選んだネタは、やっぱり古典の『天狗さし』。主人公は、天狗を捕まえてひともうけ企む愛すべきアホ・喜六。それを、二葉さんが熱演し観客は大ウケだった。

 

「そのときの会場は大阪。いつも応援してくれはるお客さんがぎょうさんいてて。ほんま、押し上げてくれはったなと思います」

 

結果は先述のとおりの快挙。その大手柄を師匠も手放しに喜んだ。

 

「二葉は誰よりも根性がありました。NHKの賞も何年も前から『絶対とります』と宣言して、有言実行しよったわけで。それはもう、素直に褒めてやりたいですね」

 

当の本人は前年から手のひらを返したような高い評価に「え、本当にいいんですか、と思いました」と舌を出す。

 

「でも、女性には無理と思われてた古典で、受賞できたことは、素直にうれしかった。自分で言うのもなんですけど、歴史、変わったんちゃうかな(笑)」

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