『夢芝居』はいいかげんに作ったら大ヒットしてびっくり 異色のシンガーソングライター小椋佳
画像を見る 妻・佳穂里さんとは、幼稚園時代からの付き合い。昨年末、20年にも及ぶ週末婚を解消して同居

 

■ピアノもギターも弾けないし、楽譜も読めない。詞を書いて、テープレコーダーを回して歌っちゃうだけ

 

「レコード会社もたいして期待してなかったんだけど、出してみたらじわじわじわじわと評判になった」

 

だが、お堅い銀行では、なかなか兼業は認められないもの。

 

「先輩が人事部長に掛け合ってくれたの。おおらかな人で、いいともダメとも言わず、なんとなくオッケーになっちゃった」

 

仕事中でも、音楽のことは頭から離れなかった。赤坂支店に配属され、新規顧客を開拓するためにオランダ航空の事務所へ営業に行ったときのことだ。

 

「親しくなった所長が、いつもコーヒーを出して、サボらせてくれるんですよ。そのとき、窓際に鉢植えが飾ってあって、女性職員に『この花、面白いね。なんて花?』って聞いたら、シクラメンていうんですよって」

 

この花で歌一つ作ろうと思い立ってできあがったのが、布施明が歌う『シクラメンのかほり』だ。

 

「こんな調子で、年間50曲、多いときで100曲は作っていました。昔は、曲が湧くようにして出てきたんですよ」

 

その曲作りも、独特だ。

 

「ボクの場合、ピアノもギターも弾けないし、楽譜も読めない。だから、詞を書いて、テープレコーダーを回して歌っちゃうだけです。録音した歌を、楽譜に書き起こしてくれる人に頼んで、あとはアレンジャーにまわって、アレンジがつくという流れ」

 

梅沢富美男に提供した『夢芝居』のキャッチーなイントロは、アレンジャーが作ったものだ。

 

「最近、梅沢さんが出演するレモンサワーのCMでも使用されて、ボクのところに印税がウン百万円入りましたが、あのイントロ、ボクは作っていないんだよなあ(笑)」

 

同曲も、小椋さんの飄々とした性格のために生み出された。

 

「ゴルフの約束がキャンセルになって、日曜の予定が空いたんで、歌作りを片付けることに。午前中に作った童謡が満足のいく傑作で、午後に梅沢さんの歌を作ろうと思ったときに、ちょっと面倒くさくなっちゃってね。それで午前中に作った傑作が長調だったので、短調にしただけの曲が『夢芝居』。いいかげんに作ったっていうと失礼だけど、大ヒットしちゃうんだから、びっくりですよ」

 

’86年には、年末時代劇『白虎隊』の主題歌となった『愛しき日々』がヒット(作詞・小椋佳/作曲・堀内孝雄)。

 

「歌を渡したくないと思う歌手もたくさんいます。やっぱり歌がうまくて、味がある人がいいですよね。なかでも別格だったのは、美空ひばりさんかな。あの人は、天才。希有なことはね、裏声で歌う高い声に、味があるんだよね」

 

代表曲『愛燦燦』は、幾人もの歌手がカバーしてきた。

 

「あれは、味の素さんのコマーシャル曲ですね。曲を作る前にコマーシャルフィルムがすでにできあがっていて、それをイメージした曲なんです」

 

アメリカの大農家が舞台で、中心に農家の主婦が描かれていた。

 

「その主婦に、光が燦々と当たる様子を見て『燦々』という言葉をテーマにしてみようと。その数年後にひばりさん亡くなっちゃったから、ひばりさんの人生を映しているような歌になっちゃったんだと思います」

 

小椋は、ファイナルツアー「余生、もういいかい」を1月18日に終え、引退かと思うとさにあらず。私財13億円を投じ、子供ミュージカルや劇団のリハーサルや稽古場として利用できるスタジオビルを、都内に建設中なのだ。

 

「小さなライブ用のスペースがあるから、春夏秋冬に各1回くらいのゆっくりしたペースで、ボクのライブもやりたい」

 

次世代への拠点を残し、これからも歌い続けたいと語る小椋。

 

79歳にして、人生は燦燦と輝いて――。

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