画像を見る

日本人は平均すると1日に6時間35分ほど寝ている。国際平均からは45分短く、働き者の日本人らしい数字だが、それでも生活の3割弱は寝て過ごしている計算となり、いかに快適な睡眠を取れるかが人生の豊かさにも直結する。

 

スウェーデン・ウプサラ大学の神経学者と健康問題を20年追ったヘルスジャーナリストが、人間の生活に欠かせない睡眠のさまざまな謎を解き明かした『熟睡者』から一部抜粋、再構成してお届けする。

 

私たちの世界には、いたるところに病原菌が存在する。

 

誰かがくしゃみをすれば、ウイルスや細菌が部屋中に撒き散らされる。公衆トイレや職場のトイレのドアの取手を握れば、ほかの多くの利用者の病原菌をもらうことになる。直前に地面を転げ回り、ほかのイヌの糞の匂いを嗅いでいたイヌに、顔や手をなめられることもある。

 

人は日々、細菌やウイルスにさらされているのだ。皮膚、腸、粘膜、あるいは肺から取り込まれた細菌やウイルスは、体内で悪事を働こうと試みる。

 

だが私たちの体には「免疫システム」という名の防御メカニズムが組み込まれていて、ほとんどの侵略者から体を守ることができる。

 

■睡眠不足で「感染症」にかかりやすい

 

この防御メカニズムの一部は、「非特異的(自然)免疫システム」と呼ばれる。自警団のような存在で、スキャナー(スーパーマーケットのバーコードスキャナーに少し似ている)を手に、侵入の可能性を探り出すために体内を巡回する。

 

不審者を発見すると、有効なバーコードを所有しているか、つまり体に属するか否かをチェックする。容疑者のバーコードが、たとえば肝臓や腸、心臓に分類される場合は、体の正当な構成要素とみなされ体内に残ることが許される。逆に、その体固有の細胞ではなく、異質な侵入者だと判明すると、使える手段をすべて用いて戦うことになる。

 

著者ベネディクトは、睡眠不足がこの非特異的免疫システムにどのような影響を与えるか、その関係性を探るべく実験を行った。

 

何がわかったか? 徹夜をした後、体内の自警団は異物探索時の食らいつきが弱くなり、すぐに疲れてしまったのだ。つまり、十分な睡眠がとれなかったあとは、感染症にかかりやすくなるということだ。

 

■「細胞」がウイルスと戦う

 

非特異的免疫システムに加えて、私たちは侵入者に対してより的を絞って対応する、「特異的免疫システム」を有している。

 

特異的免疫システムは時間の経過とともに洗練され、発達していく。非特異的免疫システムとは違い、生まれつき備わっているものではない。

 

例を挙げよう。

 

布を裁断していてハサミで指を切ってしまったとする。ハサミについていた細菌が傷口に付着し体内に侵入すると、体は「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞の一種を引き寄せる情報化学物質を放出する。これを受けて樹状細胞は細菌の情報を収集し、分析し、外敵であると結論づけると、細菌に関する重要情報を保存する。樹状細胞は続いて、「T細胞」(様々な能力をもつ免疫細胞)が存在するリンパ節へ向かい、そこで先に保存した情報を提示する。

 

これが既知の情報であると判断すると、T細胞は分裂と増殖を開始する。T細胞はウイルスや細菌に対して適切な武器を備えていて、平和を乱すものとの戦いのためのタスクフォースのようなものを形成する。

 

一部のT細胞は、侵入者に対し直接攻撃を仕掛けようと決意する一方、ほかのT細胞は、「B細胞」を刺激する。体内に侵入した異物(抗原)に合致する抗体を作り出すのがB細胞の役割だ。抗原とB細胞が産生した抗体がドッキングすることで、体の免疫システムは、侵入者をはっきりと識別できるようになり、より狙いを定めて敵を倒すことができる。

 

このシステムが円滑に機能するかぎり、人は健康でいられる。

 

■寝不足だと「細菌」を追えない

 

しかし、この免疫システムが効果的に機能するか否かは、質のよい睡眠にかかっている。

 

細菌やウイルスとの戦いには多くのパワーが必要だ。一晩あるいは連日、満足な睡眠がとれない夜が続き、睡眠不足によってエネルギーを消耗し、必要な力の源が不足した脳は免疫システムに次のような伝令を送ってしまう。「もう無理だ、あまりにもストレスが多すぎる、エネルギーが必要だ」と。

 

すると、侵入者追跡任務の優先順位は急降下していく。

 

安全で快適なベッドの中では、覚醒時よりも細菌やウイルスとの接触が大幅に減少する。そのため、免疫システムは落ち着いて自らの仕事に専念できる。

 

昼間に指を怪我し、ちょっとした炎症を起こしたと仮定しよう。その後ベッドに入り、免疫システムが妨げられることなく任務を遂行できたなら、炎症は早く治癒する。加えて、睡眠の最初の数時間には、免疫システムの防衛を精力的にサポートするすばらしいホルモン・ミックスが分泌される。血中のメラトニン、ソマトロピン、プロラクチン濃度が上昇する一方で、免疫を抑制する効果をもつコルチゾールの割合は低下する。

 

しかし、徹夜したり、睡眠が不足したりすると、免疫システムがミッションを成し遂げるための静かな時間が奪われるだけでなく、体は貴重なホルモン・ミックスをも逃してしまうことになる。

 

■「予防接種の効き目」はその日の睡眠時間で決まる

 

それどころか、睡眠不足は特定の免疫システムを弱めることが研究で確認されている。

 

散歩中にほかのイヌの糞の匂いを嗅いでいた愛犬を再び例に出そう。

 

イヌに顔をなめられると、病原体が体内に入ってくる。樹状細胞は、これが異物だと認識すると情報を保存し、リンパ節のT細胞にその情報を示す。その病原菌に特化したT細胞は増殖を始め、B細胞による抗体の産生など、病原菌と戦う重要なステップに移っていく。

 

このことが私たちの体が病原体を克服する助けとなるわけだが、病原体との接触後の「最初の夜」が、きわめて重要な役割を果たしている。夜の睡眠が妨げられたり、短すぎたりすると、樹状細胞とT細胞の間の情報交換がうまく行われず、結果として免疫反応が低下するのだ。

 

同様のことは予防接種にもいえる。

 

ドイツで実施されたある研究では、医学生を2グループに分け、A型肝炎とB型肝炎のワクチン接種を行った。その夜、一方のグループにはよく眠ってもらい、他方のグループには徹夜してもらった。

 

1か月後に両グループの免疫反応を比較したところ、ワクチンを接種した夜に睡眠をとらなかった被験者は、肝炎に対する抗体と免疫細胞の形成が少なかったことが確認された。このように、予防接種の効果はたった一晩の睡眠不足で低下し、被験者は肝炎ウイルスに対する十分な備えを得ることができなかったのである。

 

ちなみに、徹夜したグループのうち3名の被験者は、あらためてワクチン接種を受けなければならなかった。獲得した抗体があまりに少なすぎたのだ。もう一方のグループの実験参加者は皆、なんら問題なく抗体を獲得できた。睡眠はこのように、予防接種の効果をも左右する。

 

付け加えれば、ワクチン接種後の最初の夜に成長ホルモンとプロラクチン分泌の上昇、そしてコルチゾール分泌の低下を経験すると、1年後の免疫反応が改善され、これは再接種後にも認められた。

 

ワクチンを接種したときに一番大切なのは、とにかくぐっすり眠ることなのだ。

 

【PROFILE】

クリスティアン・ベネディクト(Christian Benedict)

1976年、ドイツ・ハンブルク生まれ。スウェーデン・ウプサラ大学准教授、神経科学者、睡眠研究者。キール大学の栄養科学修士課程を修了。リューベック医科大学で神経内分泌学を研究、博士号を取得。2013年よりウプサラ大学の教壇に立つとともに、同大学の睡眠研究を牽引。

 

ミンナ・トゥーンベリエル(Minna Tunberger)
ジャーナリスト、作家。約20年にわたり、スウェーデン通信(TT)や日刊紙「スヴェンスカ・ダーグブラーデット」等の主要メディアに健康をテーマにした記事を執筆。

 

【INFORMATION】

 

「もう無理」と体が免疫システムに伝令…約20年の研究でみえた「睡眠不足の大きな代償」
画像を見る

 

『熟睡者』(サンマーク出版)
https://www.amazon.co.jp/dp/476314071X

 

人を照らすメディア「Sunmark Web」
https://sunmarkweb.com/

出典元:

WEB女性自身

【関連画像】

関連カテゴリー: