医師会のアンケートで発覚!全国病院3割が「救急患者もう診られない…」
画像を見る 【グラフ】地域の医療提供体制に懸念される事項

 

■医師不足の背景には厚労省の“医療費抑制”の狙いが

 

同様の医療機関は少なくない。報道によると、岩手県立久慈病院は、すでに脳卒中に対応する救急を廃止に。新潟労災病院は、25年度中に廃院になるという。

 

日本医師会の調査でも、回答を得られた全国4千350の医療機関のうち、約3割が「救急医療体制の縮小・撤退の懸念がある」と回答しているのだ。

 

さらに厚生労働省が実施した調査では、時間外労働の上限規制を超える医師が多い科として、脳神経外科、外科、産婦人科などが挙がっている。これらの科では、医師が長時間労働をしていたからこそ診療が成り立っていたのだが、医師を増やさないかぎり、来年4月以降は、診療できる患者が減ることになる。

 

「すでに地域の病院が周産期部門を閉じたため、交通費と宿泊費を支給して遠くの病院で妊婦健診を受けてもらっている自治体もあります。今後は、一刻を争う脳卒中の患者でも、脳外科医がいないために受入れ先が見つからなくなる、という可能性も否定できません」(岩下さん)

 

こうした状況にもかかわらず、なぜ政府は医師を増やさないのか。

 

医療制度研究会・理事長で外科医の本田宏さんは、こう指摘する。

 

「厚労省は、医師不足を認めておらず、あくまで“偏在”(地域や診療科による偏り)が問題だと考えているからです。

 

しかし、医師の絶対数が足りないからこそ、少しでも負担が少ない科に若手医師が集まる結果になっているのです」

 

厚労省が医師不足を認めない背景には、「“医療費抑制”のねらいがある」と本田さんは続ける。

 

「政府は’80年代から、日本は将来、高齢化によって医療費が増大するとして、医療費削減を進めてきました。やがて人口減少で医師があまる、などといって高齢化に見合うだけの医師を増やさないのも医療費削減のためでしょう。日本は、世界一の高齢国家なのにもかかわらず、世界の平均(OECD加盟国比較)より約13万人も医師が不足しています」

 

とはいえ、医療費増大が国家財政を圧迫しているのも否めないのではないか……。

 

「それは大きな間違いです。日本の医療費はG7諸国で、下から2番目に少なく、アメリカやドイツのほうがGDPに占める医療費は多い。それでもドイツは、今年日本のGDPを抜いて経済成長を果たしていますし、総所得も上がっています」(本田さん)

 

次のパンデミックには、さらに多くの人命が失われる、と本田さん。

 

医師を増やすことは急務だが、個人で命を守る方法はないのか。

 

「重症化予防をすることが重要です。少しでも異変を感じたら、最寄りのクリニックで検査や治療を受けておくこと。日常的に関係性を持っておくことで、その連携により運ばれた病院でスムーズに治療が受けられます」(前出の岩下さん)

 

当面は、自衛しかなさそうだ。

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