医療的ケアの子は通院のため外出するのも大変
(写真・琉球新報社)
9月1日は「防災の日」。障がい者や高齢者などは大規模災害時の避難に支援が必要だが、障がいが重い人ほど、避難が難しい現状と制度の周知不足があり、当事者家族たちは不安を抱えている。避難所や経路の確認、医療器具に必要な電源の確保、避難所の衛生面など、不意に襲う地震などの災害にどう備えるか。「対策を練ることで守れる命」。安心して暮らせるよう、当事者家族たちが声をあげ始めている。
■避難は諦めている
「どこにどうやって避難するのか分からない」「(避難は)諦めるしかないと思っている」。8月中旬、沖縄県内で医療的ケアが必要な子の親の会「らいおんはぁ~と」(湯地三代子代表)の集まりで、母親たちは口々に大規模災害時の不安を訴えた。
医療的ケアとは日常生活に必要とされる医療的な生活援助行為で、人工呼吸器や痰の吸引、在宅酸素などが代表的だ。医療的ケアの子どもたちにとって、電源は命綱だ。娘の真愛(まな)さん(12)が人工呼吸器を使っている古宇利恵子さん(43)=うるま市石川=Sは「災害はいつ起こるか分からない。夫がいるときならいいが、娘と二人きりの時だと不安」と表情を曇らせる。
避難するとなれば、人工呼吸器、酸素ボンベ、吸引器、酸素の濃度や心拍をはかる機械に加え、食料や着替えなども持って行かなければならない。体の大きくなった娘を車いすに乗せ、災害で混乱する中、避難するのは古宇利さん1人では難しい。
災害対策基本法では、高齢者や障がい者など自ら避難することが困難な「要支援者」の名簿を策定し、避難を手助けする人の氏名や避難先を明記する「個別計画」を作ることが市町村に義務づけられている。名簿への登載は個人情報保護の観点から届け出制となっている。県福祉政策課によると、今年4月1日現在、県内36自治体が要支援者名簿を策済みで、残りの5自治体も策定中だ。
■必要な人に届いていない情報
医療的ケアの子どもたちは、要支援者に入るが、湯地代表(41)は「らいおんはぁ~とのメンバーはほとんどが届け出をしていない」と話す。背景にあるのは制度の周知不足。「届け出ることで何ができるのか知らされていない。どこまで対応してくれるのか、私たちに分かるように説明してほしい」と要望する。
5年前の東日本大震災の時には、沖縄県内にも津波警報が発令された。医療的ケアが必要な息子(16)がいる小橋川優子さん(37)=沖縄市与儀=は「最初から避難は諦めていた」と当時を振り返る。住んでいるのはアパートの6階。「みんな自分のことで精いっぱい。近所とのつきあいもほとんどないので、助けてとは言えなかった」と話す。
災害時の避難には地域の人たちの支援が欠かせないが、障がい児を抱える家族は重度であればあるほど、地域の行事などに参加しておらず、存在を知られていないことが多い。湯地代表は障がい児の家族が地域に出て行くことが必要としつつ、行政には「地域と家族をつなげてほしい」と望む。
娘の美姫さん(23)が医療的ケアが必要な名幸啓子さん(54)=沖縄市=は「避難できても避難所の衛生状況、食料、体温調整など考えなくてはいけないことは多い。しかし現状は避難方法、避難場所さえ分からないので、そこまで至っていない。お母さんたちは避難方法、避難先が分かれば必死になって子どもを守る方法を考える」と指摘する。
湯地代表は「在宅で子どもを見ているお母さんたちは、子どもの命を守るためにいつも頑張っているのに、災害の時だけなぜ諦めなくてはいけないの?」と問い掛ける。そして「対策を練ることで守れる命。だからこそ家族の話を聞くなどしてどのようなサポートが必要か一緒に考えてほしい」と強調した。