長友佑都が絶賛 W杯初の女性主審「審判としてならサッカーに貢献できるかも」
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■ジェンダーバイアスにはどう向き合うか、の問いに、審判員としてやるべきことをしたい、と

 

山下さんの孤独な鍛錬と成果について、JFA審判委員会・副委員長の山岸さんが評する。

 

「日ごろから『準備~練習~実践』というサイクルをコンスタントにこなすことも堅実さの評価になる。試合での山下さんの対応に、確かな成長を感じる場面がありました」

 

男子のプロリーグ戦ともなれば、女子の試合で通用していたことが、通じなくなることがあるという。

 

「たとえば主審がファウルを取り、判定の意図を説明している途中で、男子選手が『はい、はい』と切り上げて背中を向けてしまう、なんていう場面があります。

 

山下さんも最初は戸惑ったでしょうが、最近は選手がどのような態度を取ってもあきらめず、状況に応じて、伝えるべきメッセージを伝えられるようになりました」

 

鍛錬で培ったフィジカルの強さに、試合で堅実に実績を積んだことが評価され、ワールドカップの主審の大役を射止めたのだろう。

 

当の山下さんは、件のファウルの状況を至ってクールに語る。

 

「自分は『男子・女子の違い』と感じてはいません。性別ではなく、選手一人ひとりのパーソナリティと捉えています。そう考えて臨んでいれば、どんな状況でも戸惑うことなく対応できると思うんです」

 

9月に開催された、フォーリンプレスセンター主催の世界30カ国の記者が集まる会見で、山下さんは次のように質問に応じていた。

 

ーー判定ミスをして「女性主審だからダメだ」と思われることはありませんか? ジェンダーバイアスにどう向き合いますか?

 

「私自身がそういうことに出合ったことはありません。もしそういうことがあったら、しっかり向き合い、審判員としてやるべきことをしたいと思います」

 

日本の女子サッカー選手の登録数は約5万500人で、全体に占める比率6.1%、女性審判は約1万4千85人で同5.2%と、ともに少数だ。

 

だがJFAはスポーツ界でいち早くジェンダー平等に取り組んできた。ハラスメントや暴力の根絶を掲げ、選手やスタッフの研修・啓発に加えて、ホイッスルブローイング(協会内部の通報制度)の設置などに取り組んできた。

 

「事案が起きた場合はそのつど、調査・処分し、内容に応じて報道発表しています」(JFA広報担当)

 

それでも山下さんに「圧倒的に男性が多いサッカー界で、どんな苦労があったのか?」と聞くと、「まず、困難や苦労は感じずに、ここまで来ています」と前置きして、こんなふうに続けた。

 

「しかし、過去に道を切り開いて来られた先輩方や、周りのスタッフの尽力によって、私たち女性がそれらを感じずに活動できている。そこに感謝をしているんです」

 

(取材・文:鈴木利宗)

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