’17年10月、米国ハリウッドの大物映画プロデューサー・ワインスタイン氏によるセクハラ疑惑が報じられたのを受け、女優のアリッサ・ミラノが、同様の被害を受けたことの女性たちに向けて、「#MeToo(私も)」を合言葉に名乗りを上げるようツイッターで呼びかけた。
これに応え、有名スターたちだけでなく一般人も続々と行動を起こし、やがて世界的なムーブメントになった。
日本にも瞬時に波及。「#MeToo」運動をきっかけに、政界、教育界、スポーツ界から元NHKの看板アナウンサーの事件まで、押さえ込まれていたセクハラ告発が噴出。長らくセクハラ後進国に甘んじていた社会が、「絶対にNO」と認識を変えた。
「性暴力被害に遭った女性は、忌まわしい記憶と直面するのもストレスなのです。それに目を背けてきたのに、カウンセリングで『ひどい犯罪ですね』『暴力ですね』と言われると、一気にトラウマ化することもあります。ですから私は『よく思い出してくれました』や『お仕事の頑張りがすごいですね』という言葉で、まずは安心させることから始めます」
こう語るのは、精神科医の香山リカさん。性暴力被害に遭った場合、心のケアがまずは大事。とくに避けなければいけないのが自己嫌悪に陥ることだと香山さんは言う。
「“私はレイプされた女”と自分自身に間違ったレッテルを貼ってしまう方も多いのです。ときには医師としてではなく、『姉の立場として考えれば』と慎重に語りかけ、『あなたの存在のすばらしさは変わらない』ことを強調。自分が傷ついた人間ではないということを彼女が理解して、それが警察に訴えるという動きに変わっていければいい」(香山さん)
その後は自治体にある性被害支援の女性センターや、知人の女性弁護士を紹介することもあるそう。
「NPOでは警察の取調べに付き添ってくれるスタッフもいますが、警察の担当者が理解ある人ばかりとは限りません。『女性のスタッフを準備してください』と依頼してもいいでしょう」
性暴力事件が起きると、被害者の家族もまた心を傷つけられる。
「『まさか自分の家族が』と認めたくないとの思いもあるでしょう。でも最後まで味方でいられる存在は家族だけ。まずは『私たちがいるから』という安心感を与えられるように接してください。『体は大丈夫だった?』『ケガはない?』など基本的なことから気遣うといいでしょう」
災害時のケアのように、食事や寒さなど身の回りのことから声をかけてあげるほうが、特別な意識をさせないですむ場合もあるという。
「また被害者の家族は、怒りや恨みから、逮捕や裁判とあらゆる手段で“被害の回復”を考えると思いますが、最初に考えてほしいのは被害に遭った本人の回復です」
そして心配されるのが、話を聞く前から「被害者に落度があるんじゃないか」と思いたがる人が周囲にいることだろう。
「性被害の対処法は、世代によっても考え方が違うことが多いので、これを機会に、一度家族全員で確認し合っておくとよいと思います。とくにこの新年度から社会に出る方がいるご家族には、それをお勧めしたい」