高速道路の橋げたが落ち、車が転落。ビルが途中階から崩れ落ちる。木造民家は60万戸が全半壊、その下敷きなどで、死傷者は14万人を超える……。

 

これは18年前の「阪神・淡路大震災(’95年兵庫県南部地震)」の光景ではない。大阪府が算定した「上町断層帯」の直下型地震の被害想定だ。

 

「現在予測されている関西での大地震といえば、南海トラフを震源とするものと考えがち。もうひとつ忘れてはならないのが、大阪市の心臓部を貫いて南北42キロにおよぶ巨大活断層(上町断層帯)です。ひとたび、これが動けば、大阪は震度7の大地震に見舞われます」

 

と話すのは、京都大学防災研究所の岩田知孝教授。昨年度まで3年間、岩田先生は文部科学省の委託を受け、上町断層帯を調査したプロジェクトの代表を務める。

 

「大阪平野を形作っている堆積層というのは、ゼリーのようにやわらかいと思ってください。やわらかいから揺れやすい。断層帯全部が動かなくても、一部が動いただけで、大阪平野の広範囲が強く揺れます」(岩田先生)

 

本誌は、まず上町台地の北の端に立つ大阪城へ行ってみた。天守閣に登って、西方向を眺めると、今年4月にグランフロント大阪がオープンした梅田から、大阪府庁、あべのハルカスが一望だ。この真下を恐ろしい活断層が走っているとはまったく思えない。

 

「断層があるとわかったのは、わずか40年ほど前。人が暮らすうえで土地に段差があると不便でしょう。だからなるべくなだらかに削って、往来しやすくする。大阪城の西側でいうと、高速1号線の真下に活断層が走っているのですが、見た目にはまったくわかりません。だから気付かなかったのだと思います」

 

岩田先生が「もっとも断層の面影が残る」というのが、大阪府庁の西側にある中大江公園脇の坂道。行ってみると、たしかに高速1号線の方向に、ビル3階分ほど低くなっている。坂道を下り200メートルほど行くと、高速1号線の高架に出る。下は運河が流れ、周囲はビジネス街で、新しいビルやマンションの建設が進んでいるが、断層の真上に大丈夫なのか? 冒頭で紹介した被害想定を’07年に試算した大阪府危機管理室に聞いてみた。

 

「最新のビルは耐震設計も進んでいますので、なにより心配なのは木造家屋。大阪府内には、豊中市、守口市やJR環状線の東南外周部などに『地震時に著しく危険な密集市街地』が点在。木造家屋倒壊の多くはここで発生すると考えられます」(大阪府危機管理室 杉原卓治さん)

 

じつはこの「危険密集市街地」は東京都が1千683ヘクタールなのに比べ、大阪府は2千248ヘクタールと圧倒的に多く、倒壊だけでなく、火事の心配も大きい。高速道路も「兵庫県南部地震」を受けて補強したものの、それからすでに18年が経過。老朽化で震度7に耐えられるかは未知数だ。

 

「関西は体に感じる地震が首都圏などに比べると本当に少ない。そのため、まさか自分が活断層の上に住んでいると、なかなか実感できないんです。『上町断層帯』は、全体が動けばM7.5クラスだとしたら『部分割れ』でもM7。とくに大阪平野は断層の一部が動いても、広範囲が強い揺れに襲われるため、くれぐれも油断してはいけません」(岩田先生)

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