認知症でも、女房がいれば怖くない 蛭子家が見つけた夫婦の形
画像を見る 最近の蛭子さんは、週に数回、ショートステイを利用し、定期的に通院していることで、症状がだいぶ落ち着いている

 

本誌記者は、そのころの悠加さんに会っている。くぼんだ目、こけた頬。いらだちを隠せない視線を蛭子さんに向けていた。17年から3年間で、悠加さんは4回、救急病院に駆け込んでいる。ストレスからくる急性胃腸炎だった。20年7月に認知症であることをテレビで公表したのは、悠加さんの心のSOSからだった。

 

「最初、介護サービスを利用することにひるんでいました。家族のケアを人に任せるなんて。妻である私がしっかりやらないといけない、と思い込んでいました」

 

ケアマネジャーは、蛭子さんのためにショートステイ(短期入所生活介護)を受けることを提案。とにかく悠加さんの睡眠時間を確保することを優先させた。次第に悠加さんにも余裕が生まれ、二人の関係は穏やかなものへと変化していった。

 

──それから半年が過ぎた。

 

最近の蛭子さんは、週に数回、ショートステイを利用し、定期的に通院していることで、症状がだいぶ落ち着いている。混乱することが少ない昼から夕方にかけては仕事も問題なくこなせる。今年4月27日(火)には単行本『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社)が発売。病気は世間に公表され、悠加さん一人が抱え込むこともなくなった。

 

とはいえ、認知症の症状はあり、悠加さんにとっては、まだまだ大変なことばかり。

 

「心と体が健康でなければ介護はできないということを知りました。最近は、とくにソファに座ってテレビを見ている姿なんか、くまのプーさんに見えてくるんです。介護も、よっちゃんにならって私も“自分ファースト”の姿勢を持つようにしています」

 

蛭子さんに、少し厳しい質問をしてみた。記憶力がなくなることに恐怖はないのだろうかと。

 

「そう考えればたしかに怖いですね。ちょっとずつ物忘れはひどくなっているというか……、どんなことを忘れたかについては、忘れてしまいましたけど(笑)。でも女房がいるから大丈夫なんじゃないかな……と思いますけど」

 

それを受けて悠加さんが語る。

 

「そう大丈夫、よっちゃんが何もかも忘れても、私が全部、覚えておいてあげるからね!」
「それはありがたいね」

 

そう答えた蛭子さんに、悠加さんはふわりと笑いかけた。

 

一時は自死さえも考えたという悠加さんの心の持ちようが変わったきっかけは、“自分ファーストの介護”の大切さに気づいたこと。そう、介護ではときに「蛭子さんみたいな考え方」が役に立つのだ。

 

「女性自身」2021年5月11日・18日合併号 掲載

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