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「まさか、美容師さんにすすめられて使っていたヘアオイルが原因で、こんなやけどになってしまうなんて……」

 

そう語るのは27歳の女性Aさん。深いやけどを負った彼女の額は包帯で覆われ、患部のすぐ下にある左目は腫れて潰れている。

 

悲劇が起きたのは4月11日。27歳になるAさんの誕生日を祝う席での出来事だった。

 

喫煙者であるAさんが、タバコにライターで火をつけようとしたところ、手がすべり前髪に引火。そのまま炎が燃え広がった。自分ではその炎を消すことができず、周りの客2人がかりでなんとか消化したという。

 

「髪の毛に火がついて、少し焦げるということは、日常生活でもあると思うんです。けれど、今回は焦げるのではなく、燃えている。しかも、全く消えない。火が消えた後、額に激痛が走って、これはまずいと感じ病院に行こうと思ったのですが――」

 

受け入れてもらえる皮膚科を探して、近くの病院に連絡をとったが、どこもコロナ禍を理由に受け入れを断られたという。このままでは病院にかかるのは難しいと判断し、救急車を呼んだところ「これはやはり病院に行ったほうがいい」と、都内の病院に搬送された。

 

やっと辿り着いた病院で下された診断は、深達性II度熱傷とIII度熱傷。皮膚は外側から、表皮・真皮・皮下組織(脂肪)で構成されるが、深達性II度熱傷は真皮の深いところまで、III度は皮下組織にまで傷害が及んだものだ。

 

「医師の方に『これはケロイドになるかもしれない』と言われ、頭が真っ暗になりました。額の傷を改めて見てみると、額の左半分がボロボロ。肉も見えているし、一部は焦げたように真っ黒になっていました。やけどが深く、痛みを感じる神経まで損傷されているので、痛みさえしないし、自分の顔からは、焼け野原のような匂いがずっとしている。もちろん前髪も焼け落ちています。生きている自分の体がこんな状態になるなんて本当に悲しかった。よりによって誕生日ですよ――」

 

しかし、なぜタバコの火が髪の毛に燃え移っただけでこんな事態になったのだろうか?

 

「診察を担当した医師に『普通の火だったらここまでは焼けない。何か塗っていましたか?』と聞かれたんです。思い当たったのは、美容室ですすめられた、肌にも髪にも塗布できるオーガニックのヘアオイル。医師の方も、おそらくそれが原因だろうねと」

 

Aさんが使用していたのは、ゴマ油やホホバ種子油などの天然オイル配合を歌った商品。確かに、ヘアオイルも油だが、ヘアオイルを髪につけたことで髪の毛が燃えやすくなることなどあるのだろうか? よしき皮膚科クリニック院長の吉木伸子先生に伺った。

 

「髪そのものは、火がついても、炎を上げて燃え上がることはありません。チリチリと焦げていくため、普通ひどいやけどにはなりにくいです。しかし、オイルは燃料にも使われるようなもの。当然、オイルがついている髪に着火すればよく燃えます。植物油の着火温度は250度以下であり、ライターの火は800~1,000度くらいありますから、触れれば火はつくでしょう。

 

油が燃える、というのは天ぷら鍋を加熱しすぎれば発火するのと同じ、と考えればわかりやすいのではないでしょうか。該当するヘアオイルと天ぷら油は同じ植物油です」

 

オーガニック系のヘアオイルには体全体に使えるオイルも多いが、危険度は使用方法によって差があるという。吉木先生はこう続ける。

 

「体に使用する場合、髪よりも燃えにくいとは思います。髪は水分が少ないのと、髪の間に空気を含んでいるので、燃えやすいのです。また、髪が火に触れることはありえますが、手を火にかざすことはあまりないでしょう。また、同じ油分を含むものでも、クリームは、オイルよりも水分が多いので燃えにくい。おそらく火をかざしても燃えないと思います」

 

吉木先生によると、オイルはガソリンのように引火性があるわけではないため、直接火をかざさなければ燃えることはないだろうという。

 

「生活の中には普段気に留めていなくても、燃えやすくなるものは他にもあります。例えば、ネイルが乾く前にタバコを吸って、ネイルに引火した事例があります。ネイルに使われる有機溶剤は、引火性があるので乾くまでの間は注意が必要。また、コロナ禍でよく使われるアルコール消毒も、乾くまでは要注意です」

 

今回のようにヘアオイルを塗布した髪に着火し火傷を負った例は、過去にも報告されている。直近では今年3月に、北海道の男子大学生が仲間の部員の頭に「くせ毛を直すため」と大量のオイルトリートメントを塗布。そこにライターで火をつけ、全治2カ月の大やけどを負わせた事件が起きている。

 

Aさんが製造元に問い合わせたところ「謝ることしかできません。オイルが入っているものですので……。一応、火気には近づけないようにとは書いてあるのですが。もう少し注意喚起できるように努めます」と担当者は答えたという。しかし、実際パッケージに表記されているのは《高温、低温、直射日光の当たる場所、乳幼児の手の届く場所には保管しないでください》という記載だった。

 

「そもそも火の話は書いていないじゃないかと思いました。それに、保管方法の注意点と塗った髪の毛が燃えるというのは別の話では……?」とAさんは悔しさを滲ませる。

 

「髪の毛を燃やそう、とは普通思わないから、そのような注意喚起がないのも理解はできます。でも、ヘアオイルは顔まわりにつけるものだし、日常生活において火を使う機会はある。頭のどこかにこんな事例もあったと覚えておいてもらい、私のような怪我を負って欲しくないと思います」

 

スタイリング剤として人気が高まるヘアオイルは、髪の毛のダメージをケアしながら、流行りのツヤ感、ウェット感をだせる万能アイテム。すべてのオイルで同様の事例が起きるとは限らないが、使用の際には注意が必要だ。

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