「妻は4人の子を育てながら、ずっと保育士をしています。なので、当たり前ですが、僕は家事もします。台所にも立ちますよ。布巾でこうして拭いてる姿だってほら、どう? 板についてるでしょ」
夫は笑顔で、手際よくキッチンカウンターを拭き始めた。その様子を含み笑いを浮かべ眺めていた妻が、やおら手を伸ばす。
「手伝おうか?」
布巾を握る夫の手の上に、自分の手を重ねてみせたのだ。不意にあてられた仲睦まじい夫婦の姿に、カメラマンが慌ててシャッターを切る。
「お、ありがとう……でも、なんだか、手伝ってもらってる感じがしないんだよね。グイグイと、強引に拭かされてる感じ(苦笑)」
「ばれました~、グイッ(笑)」
「いたっ。力、入れすぎ(笑)」
夫婦漫才のような掛け合いを繰り広げるのは、沖縄県知事・玉城デニーさん(59)と、妻で保育士の智恵子さん(59)。
9月30日に行われた沖縄県知事選挙。「辺野古新基地建設阻止」を公約に掲げた玉城デニーさん(59)は、同県知事選史上最多となる、約39万もの票を獲得し圧勝。10月4日、知事に就任した。安倍晋三首相との初会談も、就任9日目には実現。改めて示された「新基地NO」の民意を直接、国のトップに伝えた。
しかし、順風満帆な船出というわけではない。会談からわずか5日後。防衛省は、8月に沖縄県が辺野古の埋め立て承認を撤回したことについて、行政不服審査を請求。それを受け、国土交通省は10月30日、撤回の効力停止を決定。中断していた新基地建設工事は無情にも再開されたのだ。
依然、沖縄の民意は踏みにじられたまま。知事にのしかかる負担も甚大で、前任者の妻・翁長樹子さんは、かつて本誌に「在任中、夫は笑顔で帰宅したことがなかった」とこぼしたことも。デニーさんは神妙な面持ちで、こう話した。
「沖縄県知事は、それほどに激務で責任の重い仕事。だからこそ、しっかり切り替え、オフの時間も大切にしたい。僕も、どうしても難しい顔で帰宅してしまったり、家でもつい言葉がとげとげしくなってしまうことも。そんなとき『リラックスして、スイッチ切ったら』と言わんばかりに、智恵子がいろいろ和ませてくれる」
デニーさんの言葉を聞いていた智恵子さんは「でも」と続けた。
「2人ともすぐスイッチ入っちゃうよね。結婚したころからスイッチ入るとすぐ議論になってさ。子どもの教育のことから、いろんな世の中の問題まで。あまりに厳しい議論するもんだから、親戚の子なんかさ、『玉城家は怖いから行きたくない』って言ってたよね(笑)」
夫婦そろってのビール党。デニーさんは「帰って、缶ビールをプシュッと開けることがいちばんの切り替えかも」と笑う。
「すると、離れたところで同じくプシュッと音がして。見ると智恵子も(笑)。でも、そこから議論のスイッチが入っちゃうと大変。プシュプシュプシュ……止まらなくなる。そうなったときの妻は、それは手ごわい論客です(笑)」
デニーさんはバンドマンからタレント、そして市議、代議士へと転身を繰り返した。ついには沖縄県政のトップに立った彼の背中を押したのも、妻の言葉だった。
「妻はことあるごとに『あなたがぶれずにやるなら支える。でも、道に反することをしたら、味方しない』と言ってました。だから、僕もここまでやってこれたし、この先もぶれずに頑張れると思う」
夫の言葉を頷きながら聞いていた妻は、こう付け加えた。
「彼が偉くなればなるほど、鼻をへし折るのが私の役目。お友達やイエスマンに囲まれて、どこかの偉い人のようになってしまったら、おしまいだから(笑)」