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「息子がプロ昇格が決まる9月3日は、愛知県の自宅で結果を待っていました。朝からドキドキしてしまって、将棋連盟のホームページで、対局結果が更新されるのを何度もチェックしていました。ようやく17時過ぎに知り合いの人から“昇格しましたよ”と連絡をもらって、全身の力が抜けたんです」

 

そう、ほっとしたように語るのは、10月1日に、史上最年少の14歳2カ月でプロ棋士となる藤井聡太くん(14)の母・裕子さん(46)。聡太くんの最年少記録は、加藤一二三九段(76)以来、じつに62年ぶりの更新という大快挙だ。彼が戦い抜いた奨励会とは、プロ棋士の養成機関。全国の俊英がしのぎを削っても、半年に2人しかプロになれないという、厳しい世界だ。

 

将棋と出合ったのは5歳の夏。ゲーム好き、勝負好きの聡太くんのために、祖母の育子さん(74)が持っていた将棋駒を出したのだった。

 

「聡太はまだ文字も読めませんでしたが、駒は初心者のために、矢印で動かし方が記されていました。あっという間にルールを覚え、『おばあちゃんとやると簡単に勝てるから楽しい』と、どんどん上達していきました」

 

プロを目指したのは、小3のとき、全国小学生倉敷王将戦という大きな棋戦で優勝を飾ったのがきっかけだ。その翌年、ついに奨励会に挑む。まだ小学生の聡太くんを全面的にバックアップしたのは、母の裕子さんだった。

 

「月に2回、名古屋から新幹線に乗って大阪の関西将棋連盟に通っていました。朝4時半に起きて朝食の準備をして、5時に聡太に食べさせて……。8時には将棋会館に到着するように、5時半には自宅を出発していました」

 

なかなか勝てずに苦しむこともあった。奨励会で6連敗したときのことは、裕子さんにとっても記憶に残っている出来事だ。

 

「会館の中では悔しさを胸の内におさめていたんだと思いますが、私と一緒に会館を出たとたんに、もう大泣き。自信を失っていたんだと思います。でも、私は、聡太の気が済むまで黙って見守るしかありません。それでも一緒に悲しんでいるつもりなんですが、聡太は『お母さん、ボクが負けると機嫌悪いよね』って言うんですよ(苦笑)」

 

大嫌いな負けを一緒に悔しがり、次の勝ちにつなげる。聡太くんとともに母・裕子さんも喜び、そして泣いてきた−−その積み重ねが、聡太くんを負けず嫌いのプロ棋士に成長させたのだろう。

 

「プロは厳しい世界。最年少だからといって、勝てる保証はありません。でも、本人が選んだ道だから、私は応援するだけ。聡太が勝つ姿が見たいです」

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