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現在、女性の伝統工芸士は全国に614人。女性蔑視が当たり前だった職人の世界で戦う彼女たちは、女性目線の新たな感性で優れた作品を生み出し続ける。そんな男社会だった“伝統”に風穴を開ける、京都で活躍する女性伝統工芸士を紹介。きらめく用の美はまさに匠の業だ。

 

【京漆器】新井悦子

 

「私は漆のキラキラ、ツヤツヤしたところに引かれて漆の職人になりたいと思ったんですよね」

 

神奈川県出身の新井さんは、幼いころから絵を描くのが好きな子どもだった。美大進学を目指したが受験に失敗。「絵で食べていく道はないか」と模索していた新井さんの目に留まったのが、京都伝統工芸専門学校(元の京都伝統工芸専門校、現・京都伝統工芸大学校)だった。

 

「学校の講師は京都の職人さんたち。私が『漆の作家になりたいんです』と話していたら、ある職人さんが師匠を紹介してくれたんです」

 

こうして新井さんは専門学校卒業後、漆芸家・岡田雄志さんの内弟子に。7年間の修業を経て30歳で独立した。

 

「漆は、たとえば木製の漆器を作るとしたら、はじめに木地となる木に生の漆を吸わせるところから始めて。漆をつけては乾かし、研ぐという作業を何回も何回も途方もないくらい繰り返すんですね。絵を描くとか、土をひねってすぐに形が現れるということがない、結果がなかなか出ないところが大変といえば大変ですね」

 

たとえば、小さな帯留めを1つ作るにも、毎日作業して1週間から10日を要するという。だが、それだけの手間をかけて作り上げた本物は「やっぱり魅力的です」と新井さんはほほ笑む。

 

「うまく説明できませんが、人の肌と同じなんですよ。乾燥したところに放っておけば、だんだんものも悪くなって、ほこりや油分で汚れもします。でも、お手入れさえ怠らなければ、いつまでもきれいでツヤツヤ。持ち主よりもずっと長生きするんです。子や孫の代まで引き継いでいけるんです」

 

【新井悦子/あらいえつこ】

’80年、神奈川県出身。’03年、京都伝統工芸専門学校を卒業し、漆芸家に師事。内弟子時代も朝日現代クラフト展など数々の展覧会で入選。’10年、独立。’14年、京もの認定工芸士、’15年、伝統工芸士に認定。

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