14年で夭逝した娘のメッセージ「ママ がんばって立ち直って」
画像を見る 椿さんのいた日々を振り返る、みやびさんとご家族

 

■生後8日目に突然の異変。15万人に1人の難病で、2歳5カ月までに3度の心臓手術を

 

「幼いころから漠然と『早く結婚して家族が欲しい』と思っていたんです。だから、妊娠がわかったときは素直にうれしかった」

 

高校卒業後、地元企業に就職したみやびさんが職場で知り合ったのが、子供たちの父親となる1歳下の男性だった。半年ほどの交際を経て、2人はいわゆる“授かり婚”をした。そして06年10月7日、みやびさんは21歳で母になった。

 

「自宅から少し離れた助産院で、水中分娩で産みました。助産師さんが生まれてきた赤ちゃんを胸に抱かせてくれて……。ちっちゃいな、本当に赤いんだな、頑張って生まれてきてくれたんだな、って胸が熱くなったのを覚えています。ありきたりですけど『やっと会えたね』って声をかけたと思います」

 

体重2千640gの女の子。「その花のようにりりしく堂々とした女性になって」と願いを込めて、両親は「椿」と名付けた。

 

妊娠中も出産時も、椿さんに異常は見られなかった。ところが、生後8日目の夕方、異変が起こる。

 

「自宅のベッドに寝かせていた椿から、いつもと違うおかしな呼吸の音が聞こえてきて。見ると顔は紫色で、舌が落ち込んで呼吸がまともにできていない状態でした」

 

慌てて椿ちゃんを取り上げてくれた助産師に相談し、倉敷中央病院の救急外来に駆け込んだ。そこで対応した医師から「娘さんは心臓病で、すぐに手術が必要」と診断され、今度は岡山大学病院に救急搬送、緊急手術を受けることに。

 

診断によれば、椿さんは胎児のころ脾臓が形成されず、無脾症候群になっていたという。その合併症として、単心室症という先天性心疾患も抱えていた。単心室症は、15万人に1人がかかるという難病だった。

 

「まさか!? いったい何が起きてるの?」

 

ぼうぜん自失の思いで診断結果を聞いていた。ほんの数時間前までの幸せが、一気に萎んでいくような気がした。手術中は「どうか娘を助けてください」と震える手を合わせ祈り続けた。あふれる涙を拭うことも忘れて自分を責め、心の中で娘に向かって頭を下げた。

 

「ごめんね、健康な体に産んであげられなくて、本当にごめんね」

 

母の願いが通じたのか、誕生間もない小さな体は6時間に及ぶ大手術を乗り越えた。しかし、これは長い闘病の始まりでもあった。

 

生後4カ月でふたたび呼吸困難になって緊急入院し、2回目の心臓手術。手術は成功したものの、術後の合併症に苦しみ、1歳を過ぎるころまで入退院を繰り返した。

 

そして、2歳5カ月のころ、椿さんは3度目の心臓手術を受ける。

 

「この手術は、静脈血の戻る血管を心臓から切り離し、肺動脈につなぐ『フォンタン手術』と呼ばれる大がかりなものでした。でも、この手術のおかげで椿の体調は格段によくなって。とくに運動制限や食事制限もなく過ごせる時期がしばらく続きました」

 

その1カ月後にはペースメーカーを埋め込む手術を受けたり、ときおり感染症を患って入院することはあったが、心臓病が原因での入院や手術はなくなった。

 

「幼稚園や小学校にも積極的に通い、行事にも参加できました。弱々しいイメージを持たれがちですが、椿はどちらかというと勝ち気な性格。おしゃべりで。人を笑わせることも大好きな活発な子。クラスの人気者? う〜ん、ちょっと我が強すぎるところもあったから、お友達みんなと仲よくできたかはわかりません(苦笑)」

 

14年、椿さんが小学校1年のときに弟・楓くんが誕生し、家族が増えた。いっぽう、2年後の16年、みやびさんは子供たちの父親と離婚。彼は家庭や育児に関心を示そうとしなかった。難病を抱えた娘のケアも、みやびさんのワンオペ状態が続いていた。

 

「離婚は避けたかった。でも、私自身が自分を保てなくなって。彼の帰宅時間が近くなると動悸がしたり。子供の前なのに涙が止まらなくなったり。それで30歳、節目と思い決意して、離婚しました」

 

同じ年の秋、小学校4年生になった椿さんの人生も、ふたたび暗転してしまう。軽い咳と微熱が続いた椿さんに、フォンタン術後症候群の診断が下ったのだ。

 

「詳しい原因はわかっていないそうですが、フォンタン手術を受けたのち、全身状態が悪化すると発症するそうで。根本的な治療法はなく予後も不良と説明されました」

 

患者によって症状はさまざまで、医師は手探りでの治療を余儀なくされる。椿さんの場合、とくに顕著に現れたのが蛋白漏出性胃腸症と、それに伴う難治性腹水だった。消化管など体内から漏れ出た体液が、おなかにたまってしまうのだ。椿さんはこの症状に、最後まで苦しめられることになる。

 

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