「履歴書持って『修業させてください』ってお願いに行ったんですけど、一蹴されまして(笑)」。「大勝」での修業を夢みた高橋さんだったが、行く先は昔ながらの家族経営の老舗。その入り口は閉ざされていた。

 「それでも、とにかく顔覚えてもらって、なんとかもぐりこみたいと思って」、高橋さんは毎週2〜3回、表参道での仕事を終えてから柏の「大勝」に客として通い始めた。雲を掴むような話。それでも、求める者にやがてチャンスは与えられた。「1年くらい通った頃ですか、妻が電話を受けまして。大勝の旦那様からでした。信じられませんでした」。偶然パートのおばさんが辞め、お金はそんなにあげられないけど、やる気があるなら修業してもよい。「いくらもらえるのかも、どれくらい修業したらいいのかもわからなかったけど、ただ飛び込みました」。夢を諦めなかった高橋さんの情熱もすごいが、弟子入りを断りつつ履歴書を捨てずにいた「大勝」の店主も、懐が広い。そして夫の向こう見ずともいえる決断を応援した、高橋さんの奥さんも。

 「夫の夢だったので、力になりたいと思いました」、当時を振り返る、妻の智子さん。高橋さんの「大勝」での最初の時給は700円。30歳を前に子供がいる状況、普通ならそんな転職、ありえない。それでも家族で実家に身を寄せ、自分も外に働きに出る選択肢を智子さんは選んだ。

 「だけど『大勝』の味を自分なりに掴んで、将来商売することができれば、必ずいい未来が待ってるってその絶対的な自信はありました」、そう語る高橋さんに「?」の視線を投げて笑う智子さん。「とにかく、あの電話が大きかったですね。『俺の人生も捨てたもんじゃないな』って、あの時思えましたね」

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