「厚生労働省によると、65〜74歳の歯の数は’75〜’05年の間に男性で7.3本、女性で9.5本増加。いっぽう平均寿命もそれぞれ6.8歳、8.6歳伸びています。歯の健康は、長寿にもつながるんですね」

 

そう話すのは順天堂大学教授の小林弘幸先生。厚生労働省では80歳でも自分の歯を20本維持することを提唱している。実は咀嚼には血流アップの効果があるという。また、最近の研究では脳との関係も明らかになったのだ。

 

「なんと咀嚼運動そのものが脳の血流をよくし、脳の機能を活発にするのです。チューインガムを使った実験では咀嚼によって脳の血流がアップするという結果が!小脳や前頭葉の運動野などで10〜40%も血流が増加していることが認められているのです。さらに固形食で飼育したラットは、細かく砕いた餌で育てた群に比べて迷路実験の結果がいいという報告も。咀嚼能力は、脳の血流と知能指数に深く関係していると言えるでしょう」

 

小林先生は、全身の血流を支配する自律神経にも咀嚼は影響するという。やはりガムを用いた咀嚼実験では、心臓交感神経の活動がかむ前よりも活発に。これは、心臓から全身に血液を送り出すチカラが強くなることを示している。

 

「私は一定のリズムでかむことで副交感神経の働きも活発になると考えています。副交感神経の働きはリラックス時に活性化する。ガムをかむと脳のα波が増加!これはまさに、リラックス状態にあることを表しているのです。副交感神経が活発だと末梢血管が開くので、心臓から押し出された血液が全身の隅々まで行きわたることに」

 

大リーグの選手などがよくガムをかんでいるのは一定のリズムをとることでリラックスし、集中力を上げようという狙いだが、全身の血流もよくなるので、心身のパフォーマンスが向上するのだという。

 

「足腰に滞りやすい血液をポンプのように心臓へ送り返すふくらはぎが『第二の心臓』とも呼ばれることにちなんで、咀嚼は『第三の心臓』といわれることも。年齢とともに気になる歯槽膿漏も、顎にある歯槽骨髄というところに汚れた血液が溜まることが発症の一因なのですが、咀嚼によって血流がよくなれば予防ができます。かむことが、健康な歯を維持することにつながるのです」

 

ちなみに、よくかむと満腹中枢が刺激され、内臓脂肪も分解されるためダイエット効果も。食欲の秋にお悩みの方には、一石二鳥だ。

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