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10年後にはもう自分はこの世にいないかもしれない。わが子を残して、死んでしまうかもしれない。もし自分がそうなったら、あなたは子どもに自分ががんであることを、つたえますか?ーー。

 

「私の命は短いかもしれません。でも、それを知らされていなければ、一緒にいられる貴重な時間を、ごく普通に過ごしてしまっていたと思うんです。だから、娘にはがんと言う病気も、もしかしたら死んでしまうかもしれないことも全て話しています」

 

子どもを持つがん患者が、自由に意見を発信して情報交換できる会「キャンサーペアレンツ」に登録しているTさんは、取材場所のファミリーレストランに同行してきた小4の娘の前で、そうはっきりと語る。昨年12月、会社の健康診断の結果、肺に9ミリの影が見つかった。仕事の忙しさを理由に、ようやく再検査したのは今年3月だった。

 

「すでに影が1.8センチと倍近い大きさになっていました。『がんの可能性はありますか?』と先生に聞くと、『あります』と言われ、頭が真っ白になりました」

 

まだ確定診断ではなかった。病名は口にせず『ママ、病気になっちゃったの』と娘に伝えると、祖母ががんを患っていることもあり、娘から『がんじゃないよね?』という言葉が出た。

 

「可能性があることについては伝えましたが、精密検査の結果が出るまでは希望を持っていました」

 

だが精密検査の結果、ステージIVの肺腺がんと判明。足の骨にも転移が見つかった。

 

「厳しい現実ですが、娘には迷うことなく、その日のうちに『ママ、やっぱりがんだった』と伝えました」

 

娘はショックを受けつつも、学校の図書館でがんについて調べてくれた。「できることは、やってあげたいなって思って……」と、娘も本誌記者に話してくれた。

 

思い出づくりに鎌倉旅行に行ったとき、神社で絵馬に願い事を書いた。Tさんが何を書いたのか聞いても、娘は答えてくれない。その場を離れて、こっそり戻って絵馬を見ると《ママの病気が治りますように》と書いてあった。

 

「パパ、めっちゃ泣いてたよ。ママも化粧が落ちてたよ」

 

娘がそう思いだす。そう言う彼女も、Tさんに心配させまいと、隠れて泣いていたようだ。涙を流しながら、親子の絆がより強くなり、気持ちを前に向けていった。3回目の抗がん剤の副作用による脱毛も出てきた。体の変調もこれからますます出てくるだろう。

 

「すごく落ち込むこともあるし、抗がん剤治療の日はぐったりします。でも、娘が助けてくれるんですよ。副作用でゴロゴロ寝ていたりすると『寝ていていいよ。無理しないでね』って」

 

夏休みには、北海道にラベンダー畑を家族で見に行った。家族との時間は“もっと生きていたい”と、病気と闘うモチベーションにもなる。

 

「でも、ことあるごとに『天国に行っても見守っているからね』『ママが死んでも、大事な娘なんだから、自分を大切にしてね』と伝えています」

 

幼い娘に母の死という現実を背負わせるのは酷にも思えるが、Tさんは毅然と言う。

 

「私の死後、娘が寂しくても前向きに生きられるように、どんなに愛していたのかを、言葉で伝えておきたいんです」

 

これからも試練は続くだろう。しかし、親子はきっと前向きに乗り越えるはずだーー。

 

2人に1人が罹患するほど、がんは身近。“もし自分だったらどうするか”を考えることは、家族のためにもなる。ちなみに、キャンサーペアレンツが行った「がん患者のコミュニケーションに関する実態調査」アンケートの結果では、73%が子どもにがんであることを伝えており、そのうち87%もの人が『伝えてよかった』と回答している。逆に『伝えなければよかった』という回答は皆無だった。