ハンドラー(操作者)の掛け声を合図に、オスの雑種犬・夢之丞(3)が勢いよく駆けだした。とはいえ、周囲はがれきの山、ときに首まで土砂に漬かりながら半歩ずつ前進して、1軒の家屋を目指した。

 

8月20日に発生した広島土砂災害。夢之丞を育てた「ピースワンコ・ジャパン(PWJ)」は広島県神石高原町にあり、土砂災害が偶然、地元で起きたため、民間の団体としては真っ先に現場へ駆けつけた。PWJプロジェクトリーダーの大西純子さんは語る。

 

「朝10時半に到着して対策本部へ行くと『すぐに安佐南区の山羊3丁目の現場に行ってください』と言われました。一刻を争う状況で、すぐに夢之丞ら2頭の救助犬と現場に入りました」

 

そして午後1時19分。夢之丞が突然、1軒の民家のそばで腰を落とし、ハンドラーの方を何度もふり返るしぐさを見せた。「夢之丞、よし!」。すぐに捜索隊が駆けつけ掘り返すと、生存者ではなかったが、男性の遺体を発見できた。夢之丞が初陣にして、救助犬としての任務を達成した瞬間だった。

 

吠えない犬・夢之丞はもともと捨て犬で、実は殺処分寸前に広島県動物愛護センターから助け出された過去を持つ。’10年11月、愛護センターを訪れた大西さんの目に、奇妙な光景が留まった。ドリームボックスと呼ばれるガス室の前にゲージがあり、そこに1頭だけ犬が入っている。職員にきくと「今回の殺処分場が限界数になって入りきれなかったんで、この1頭だけ、次回に回されたんです」。

 

大西さんが思わず抱き上げると、犬は小刻みにブルブル震えたという。「きっと自分の(殺処分の)番が来たと思ったんでしょう。オシッコも30秒近く漏らし続けました。すぐに引き取りを決めて連れ帰りました。夢之丞という名は、ドリームボックスでの出会いを忘れないために付けました」

 

このとき、推定4カ月。なつこうとしない夢之丞を、大西さんらPWJのスタッフたちは、気長にさわり、抱き、遊んで、距離を縮めていった。

 

「1歳から服従訓練を、2歳から救助犬の訓練を始めました。夢之丞は相変わらず孤高の印象でしたが、好奇心は旺盛で、逆にどんな状況にも感情のブレがない。いわば職人気質で訓練をこなす姿に、これは素質があるんじゃないかと思いました」(大西さん)

 

昨年冬には雪山での訓練も体験した。そして今年8月、思いがけず、自分が命を救われたのと同じ広島県の現場に初出勤することになった。

 

夢之丞が所属するPWJ代表理事の大西健丞さん(47)は、こんな将来のプランを語ってくれた。

 

「今回の広島で自信をつけた夢之丞が、いずれ海外の災害現場に行く日も近いと思います。今後も見守ってください」