「東京医科大学で受験者の得点を意図的に操作し、女子入学者数を抑制していたことは、医師を目指している女性全体にとって許しがたい不正。大学からは、出産や育児で離職、休職せざるをえない女性医師を、積極的に合格させたくないという思惑を感じます。こうした問題を解決するために不可欠なのは、出産・育児のある女性医師が働きやすい、復帰しやすい医療現場を作ることです」

 

そう語気を強めるのは、6月に開院した「みなみ野グリーンゲイブルズクリニック」(産婦人科)の桑江千鶴子院長(66)だ。東京都立多摩総合医療センターの産婦人科部長として、緊急帝王切開や高難度の婦人科手術でメスを握っていたが、現在は、女性医師を含む、女性全体が安心して出産・育児ができる枠組みを作ろうとチャレンジしている。

 

3歳の娘と2歳の双子の息子を持つ医師・小澤桃子さん(33)も、大病院から桑江さんのクリニックに常勤医として移籍してきた。

 

「子どもが3人もいると当直は無理です。そのため以前の職場は人員の問題もあり、常勤医として働くのは困難になりました。ただ非常勤では外来や病棟のみの担当で手術ができません。どうしようかと迷っていたところ、桑江先生から声をかけていただいたんです」

 

週4日勤務で当直もオンコール(時間外の待機)もなし。昼間は外来に加え、婦人科の手術や帝王切開もやるという好条件だった。

 

「キャリアを積むことができて、育児とも両立できる。桑江先生は“雨宿り”と表現されていましたが、子育てが一段落したら、また大きな病院に移ることもできるので、精神的にも楽です」

 

だが、女性医師に寄り添う医療現場は少なく、出産育児を機に、キャリアを捨てざるをえなくなったというケースは少なくない。

 

厚生労働省の、’06~’16年の調査によると、女性医師の就業率は、医師登録して12年後、つまり出産や育児の時期と重なる30代後半で、75%ほどに下がるのだ。桑江さんが続ける。

 

「そうした理由から、女性医師の流出を防ぐために院内に託児所を設置する施設も増えてきました。しかし、一緒に働く男性医師の意識が古いままでは、根本的な解決にはつながりません」

 

女性医師のニーズの高い小児科でも「女性は出産時に辞めてしまうのでダメ」と断られたり、「2年間は妊娠するな」と条件を突きつけられることもある。

 

医療現場で求められるのは、24時間365日、滅私奉公で働ける医師。出産・育児は敬遠される。女性医師の割合もOECD加盟国の平均は46.5%だが、日本は20.3%(’17年)で最下位だ。

 

がんを専門とする女性内科医師の1人は、労働時間を減らせず、流産をしたときも、翌日には医療現場に立っていたと話す。

 

「職場で『妊娠』を口にしづらい雰囲気はありました。言い出せずに無理して働き、流産した人も山のようにいると思います。私は出産後に自分で育児をしたかったので、このような職場では働けないと病院を変えました」

 

現在、クリニックには26人の常勤スタッフがおり、4人の男性事務員を除く全員が女性だ。

 

桑江さんは常に、女性医師が元キャリアに復帰する道筋を考えている。たとえば前出の小澤さんのように、一定期間スローペースになったとしても、休まずに手術を続けていったほうがよいと。医師以外の医療スタッフにも、“助け合うスキル”を身につけてもらいたいと話している。

 

「看護師さんには、外来、病棟、手術と何でもできるようになってもらいたい。そうすれば、誰かの子どもが熱を出したときなど、お互いカバーし合えますから。また、電子カルテ等で情報共有して、どの部屋でも心音などをチェックできるシステムを導入すれば、合理化できて就業時間の軽減につながります。大病院では、いまだにカンファレンスに何時間もかけたり、土日に全員が集まって回診したりしていますが」

 

そして1~2年後をめどに、クリニックの隣に保育施設の開設を目指す。

 

「もう設計図はできています。単に子どもをあずかるということだけではなく、たくさんの本が読めるスペースやピアノ教室など、子どもたちの個性を伸ばしていける環境も整えていこうと思っています」

 

さらに、育児相談を受け付ける産後ケア施設も計画中だ。

 

「成功すれば、女性の子育てをサポートできる医療複合施設のロールモデルとなるでしょう。これを全国に広めていくのが目標です」