2月18日、東大病院で心臓の冠動脈バイパス手術を受けられた天皇陛下。その執刀医がこれまで診察に当たってきた東大病院の医師ではなく、順天堂大学医学部の天野篤教授だったことは驚きとともに大きな話題を呼んだ。

「東大病院は超一流ですが、研究が中心で意外と手術件数は少ない。経験不足では本当に手術の上手な医師は育ちません」と語る神経内科医で医事評論家の米山公啓さんに、年間手術数の多い、本当に命を預けたい「神の手」名医たちを挙げてもらった。

まず天野先生は3浪して日大医学部に入り、卒業直後から総合病院の心臓外科で数千例の冠動脈手術を執刀。その手腕から’01年昭和大医学部教授に招へいされ、翌年いまの順天堂大教授に転任したという異色の経歴の持ち主だ。

「この経歴こそがいまの天野先生を生んだんです。いまの医学界で技術的にナンバーワンとなるには、卒業後すぐにその分野の患者数が多い病院に勤務し、早く2番手の医師としてオペに立ち会い腕を磨くのがいちばんの近道なんです」

心臓外科手術数で毎年全国1位を続けている榊原記念病院の高梨秀一先生も、同じような経歴を持つ。愛媛大医学部卒業後、心臓外科の主力病院を何カ所か移り、現職へ。’09年には兼任で帝京大学医学部特任教授に招かれている。

「高梨先生の執刀数は毎年400例前後。計算上、毎日1人以上のオペをしているだけでも尋常ではない(笑)。しかも榊原記念病院は先天性奇形など、重度の患者が大半です。それをこの数こなすのはまさに神業」

慈恵医大血管外科・大木隆生先生の専門は、大動脈瘤などを最先端の人工血管で治療するというもの。週4日間、年間800件の手術をこなしながら、外来では1日80人を診る日もあるとか。

「大木先生は大学卒業翌年、米国の医大血管外科の研究員になっている。そこで人工血管と出合い、その第一人者となった。最先端技術をいかに自分の得意分野とするかも、神の手の条件ですね」

胃がん手術の最前線で執刀している兵庫医科大教授の笹子三津留先生は、’07年まで国立がんセンター副院長だった。しかし自分はデスクワークより現場に立ちたいと退職し、現在の医大に移ったという。

「功名心ではなく、とにかく自分でなければできない技術を現場で発揮したい、後継者を育てたいという強い気持ち。2000例を超える執刀数もさることながら、笹子先生が評価されるのはそこです」

脳の病気の最後の砦といわれるのが旭川赤十字病院の上山博康脳神経外科部長。北海道大学卒業後、おもに脳腫瘍、脳動脈瘤を担当し、年間500例以上の脳疾患手術を行っている。

「脳動脈瘤はできている場所が悪いと、手術をためらう医師も多い。患者はいつ破裂するかという不安をかかえたままの日々となります。上山先生はむずかしいところでもトライするんです。

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