認知症は早期発見をして治療に結びつけることがとても大切だ(写真:アフロ) 画像を見る

人生100年時代におけるリスクのひとつが“認知症”だ。高齢化に伴い患者数は増え続けており、2025年には65歳以上の5人に1人、約700万人が認知症になると推計されている。

 

「認知症の一歩手前とされる、リスクありの状態をMCI(軽度認知障害)といい、記憶力や注意力など認知機能に低下が見られるものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態を指します。私はこれを『グレーゾーン』と呼んでいます」

 

そう語るのは、日本老年精神医学会の理事でメモリークリニックお茶の水の朝田隆院長。MCIの時期に何もせずに放置していると1年で10%、4年で40%が認知症に移行するという報告がある。

 

「進行には個人差がありますが、MCIの段階で適切な対策を講じることで正常な状態に戻る可能性もあります。認知症を防ぐには、早期発見をして治療に結びつけることが何より大切なのです」(朝田院長、以下同)

 

認知症が社会問題として広く認識されているにもかかわらず、私たちが早期発見の機会を逸してしまう背景について、朝田院長は次のように話す。

 

「もの忘れが出てきたなどの段階では、家族が検査を勧めても本人が『自分は認知症ではない』と言って専門医にかかるのを拒むケースが多くあるのです。また、認知機能の診断テストを受けた場合でも、回答時に自分の症状を軽く評価してしまう傾向も見受けられます」

 

この課題をクリアするため、日本老年精神医学会では5年ほど前からリスクを早い段階で発見するシステムの開発に着手してきた。そして完成したのが「J-MCI」という評価方法。今年5月から一部の健康診断会場などで導入が始まっている。受検者は、パソコンの画面で13項目について「はい」「いいえ」と答えるだけでリスクの程度がわかる。

 

回答内容からコンピューターによって「認知症の傾向あり」「グレーゾーン(軽度認知障害)」「所見なし」の3つの判定が出され、本人の今の状態を確認できる。「傾向あり」「グレーゾーン」の状態と判定されたら、日本老年精神医学会に所属する認知症の専門医を探せるような仕組みもある。

 

「医療機関に行かなくても自宅でテストができ、年齢や抱えている疾患に左右されず、できるだけ正確に認知症リスクを判定できるものを作りたいと考えていました。また、これまでの専門医による認知機能検査は、時間がかかり回答者の負担が大きい点も問題になっていましたが、13項目に絞ったため、それも軽減されています」

 

設問は先行文献から認知症の初期症状63項目を抽出し、次に専門医らで議論を重ね49項目に絞った。そこからさらに、認知症患者の協力を得て、13項目に絞り込んだという。49項目の段階では、「以前より怒りっぽく、頑固になった」という項目があったが、高齢者や更年期症状を訴える女性は、認知症でなくてもそう答える人が多い、との判断で項目から除外した。ほかに「書類の記載を間違える」という項目は、視力低下など別の要因も考えられる。「足のむくみを訴えるようになった」も、やはりほかの病気が原因であるケースを考慮し除外となったそうだ。

 

もう一つの大きな特徴は、家族や主治医など、本人以外の人の視点でもテストができること。13項目に回答する前に「本人」「家族(本人以外)」「医師」にチェックをつけ、性別、年齢を入力して設問に答えると判定が導き出される。

 

「認知症リスクがある人の自覚症状と、他者から見える異変との間には差があります。認知機能のテストにおいては、自己申告では他者による評価と比べて症状を3分の1程度軽く見られることがわかっています。これを踏まえ、本人、家族、主治医の誰が答えたのかで判定が異なる仕組みにしました」

 

認知症患者や高齢者などの協力を得て検証した結果、認知症のリスクがある人の9割以上を見分けることができたというから驚きだ。今後、より手軽にアクセスできる環境を整え、活用の場を広げていく考えだという。

 

「親御さんの異変に気づいた娘さん、息子さんが代わりにチェックをすることも可能なので、認知症リスクを見つけ出すスクリーニングに役立ててもらい、早期受診を促したいです」

 

あらゆる人に忍び寄る認知症という病い。そのリスクにできるだけ早く対処することが、健康寿命を延ばす大きなカギになるーー。

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