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「まだこんな小さな子猫のときにね、あなたはこのお寺(奈良県生駒山系の信貴山大本山千手院)の境内でひとりぼっちで鳴いていたのよ。本当によくここまで立派になったものだわ」

 

日当たりのいい千手院銭亀堂の前で、昼寝をしていた私の耳に尼僧・佐々木照眞さん(67)の声が届く。

 

「昔々、信貴山は聖徳太子が山頂で戦勝祈願をしたところ。そのとき、まさに寅の年、寅の日、寅の刻、太子の夢に毘沙門天様が現れて、必勝の戦法を授けたことから、山頂にこのお寺を創建したのよ。寅はネコ科ですものね。あなたとはもともと縁があるお寺なのよ。黒猫は魔よけや幸運の象徴。たくさんの参拝者に福を分けてあげてね」

 

私はミー(メス・1歳)。黒猫の私は生まれながらの招福猫だ。聖徳太子ゆかりのお寺だから、さしずめ“ニャン徳太子”というところかしら。私の自慢は7年間、この境内で日なたぼっこをしながら、たくさんのありがたい法話を耳にしてきた。そんな、思い出いっぱいの佐々木さん法話を紹介だニャ〜。

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【法話1】和(やすらぎ)をもって貴しとニャす

有名な聖徳太子の十七条の憲法の冒頭の一節だニャ。和はやすらぎとも読むんだニャ。お寺を訪ねてくる人のなかには仕事や人間関係で疲れ、心が乾き切っている人も多い。

 

「あの黒猫を見てごらんなさい。好き勝手にしているだけ。でも眺めていると心が癒される。それはいまの日本が殺伐として、みんな疲れ切っているからなのよ。経済優先で人が道具になってしまっているんですよ。それは戦火が絶えなかった聖徳太子の時代と同じ。太子はお互いを尊ぶことが心のやすらぎにつながることを説いているんです」(佐々木さん・以下同)

 

【法話2】人生は必ず順番が回ってくるニャン

まだ私がこのお寺にすみつく前のこと。20年間。毎年、欠かさず、このお寺にお参りしていた人が20回目の参拝の帰りに買った宝くじで1等を当てたそう。

 

「どうやったら宝くじが当たるのか、と、聞かれることがよくあります。順番ですと私は答えます。焦って行動してもだめ。待っていれば必ずあなたの幸運の順番がやってくる。20年目に宝くじを当てた方を見て、それを確信しました」

 

【法話3】いくつまで生きたかではニャい、中身が大切ニャのだ

少し佐々木さんの身の上について話そうかニャ。彼女は50歳のときに長男を交通事故で亡くし「自分の徳のなさを悟った」と出家を決意。縁あって千手院で修行し、いまは近くの信貴山毘沙門天王 吉祥院を任されている。

 

「どうして25歳の若さで息子は死ななければならなかったか、ずいぶん苦しみました。でもいまはこう思うんです。息子はボクシングをやっていてプロに転向し、新人としてチャンピオン戦に挑戦しようとしているところでした。やりたいことをすべてやって、まるで25年で人生のすべてをやりつくした。90歳まで生きても、いったいなんのために生きてきたんやと思う人もいるでしょう。そういう人を見るたび、人生は長さやない。いかに生きたかで価値が決まる。そう思えるようになって、残された母としての自分に心の安定が生まれたんです」

 

【法話4】自分は少しで他人には多め

私が3歳のころ、境内にサバトラ模様の子猫が姿を見せた。それがサバ。かわいくて、まるで自分の子のように体をなめてやり、いまでも親子のようにいっしょにいるの。ただサバは私に比べて警戒心が強い。そのせいか、参拝客から遠慮なくおやつをもらう私のほうがこんなに太ってしまって(笑)。

 

「ミーちゃん、食いしん坊は健康に毒よ。自分が食べる分は少なく、サバちゃんにたくさん。長生きしたければ我慢しなさい」

 

【法話5】取り合うから足りニャい、分け合えば余る

ある日、サバとおやつを頬張っているところを通りかかった佐々木さんはこう言ったニャ。

 

「ミーちゃん、お釈迦様は『人の世は砂漠の中の水たまりにたくさんの魚が集まって、水を奪い合っているようなもの』とおしゃっています。あなたたちのように分け合うことがなかなかできないんですよ。だから世界中でテロのような恐ろしいことが起きてしまうの」

 

お釈迦様の時代から人は進歩していないのかニャ〜。まあいいか。今日もよき日でありますようにだニャ。

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