コロナ禍で、葬送の仕方が大きく変化している。感染拡大を避けるために、病院からそのまま火葬場に運ばれる“直葬”が増加。実はそれによって、「死を受け入れられない」と悩む人が続出している。
「お葬式は、残された人が故人の死を受け入れて、心を整理し通常の生活に戻っていくきっかけになるものです。しかし、コロナ禍で、葬儀自体ができなかったり、十分な葬儀ができなかったと感じている家族や、葬儀に参列できなかった人は、その人が亡くなったことを実感するのが難しくなります。そうなるといつまでも落ち込んでしまったり、元の生活に戻ることが難しくなったりするのです」
そう話すのは、よりよい死と葬送を実現するため活動する、NPO法人「エンディングセンター」の井上治代理事長。
最近では、こうした“あいまいな死”を乗り越えるため、葬儀や供養をやり直す“弔い直し”のニーズが高まっているという。
■遺骨になっても葬儀を行える
「遺骨になり『もう葬儀はできない』と悩まれている方もいますが、そんなことはありません。うちの寺では、お話を伺い、お経をあげる『遺骨葬』をとり行っています」
こう語るのは、4年前から火葬後の遺骨を供養する「遺骨葬」を行っている、大阪府の高槻市「神峯山寺」の住職・近藤眞道さんだ。
一般的に、葬儀は遺体を安置した状態で行って、その後に火葬をする。しかし、遺骨葬は遺骨のみで葬儀を行う。
「高齢の祖母が入院して、次に会ったらもう遺骨だったという方は、今世の『さよなら』も言えず、弔いもできなかったと喪失感を抱えていました。今では『葬儀をせずに火葬した』という相談者さんには『遺骨をもっておいで。拝んであげる』と伝えています。納骨してしまった場合、墓前でお葬式をあげることもできますよ」(近藤さん・以下同)
神峯山寺では、住職をはじめ2〜4人の僧侶によるお堂での読経、戒名含め25万円で、遺骨による葬儀を行っている。
住職が遺骨葬を始めたのは、葬儀のイベント化や経済的理由で葬儀ができない人がいることで、命の尊さや亡き人への尊厳が失われていると感じたことがきっかけだ。
「亡き人に感謝をささげ『私もしっかり生きます』と、伝えることも弔いの形。葬儀の意味は、きちんとお別れをして、亡き人との新たなつながりを紡ぎ直すところにあるのです」
心ゆくまで弔うことで、前向きに人生を歩んでいこう。