『再審妨害』で救われない冤罪 無罪訴え40年の女性支える弁護士
画像を見る 鴨志田さんとアヤ子さん

 

■供述者は知的障がいのある「供述弱者」。刑事裁判への信頼が崩れ落ちた

 

「いま、うちの事務所では再審事件を手がけています」

 

と、弁護士修習で配属された法律事務所の所長から、ぶ厚いファイルを手渡されたのが大崎事件との出合いだった。

 

裁判記録によれば、79年10月15日、アヤ子さんの義弟が自宅横の牛小屋の堆肥のなかから遺体で発見され、事件が発覚。被害者の長兄(アヤ子さんの夫)と次兄が犯行を自供した。殺人と死体遺棄容疑で取調べを受けるうち、殺人はアヤ子さんの指示、死体遺棄は次兄の息子も加えた4人の犯行だったと、2人の自白が変化する。

 

判決ではアヤ子さんが主犯、長兄、次兄、次兄の息子の3人は共犯とされた。共犯者3人は控訴もせず、服役。

 

アヤ子さんだけは一度も自白していない。「あたいはやっちょらん!」と、否認し続け、最高裁まで闘ったが、有罪が確定してしまう。

 

裁判記録を読み終えたとき、弁護士の卵だった鴨志田さんの手は震えていた。

 

「あまりに審理がずさんすぎる。まず、共犯者3人の自白を支える客観的証拠は何ひとつ出ていない。被害者を絞殺した凶器とされたタオルさえ出ていないんです。しかも自白したとされる共犯者3人はいずれも知的障がいがあった。彼らは『供述弱者』です。思いをうまく言葉で伝えることができない。そんな彼らから、自白を搾り取っただけで、あっさり有罪にするなんて! この国の刑事裁判に対する信頼がガラガラと崩れていくのを感じました」

 

怒りの原点には、彼女の弟の存在がある。大崎事件の共犯者3人より、はるかに重い障がいのある弟は、現在、施設で暮らしている。言葉はあまり話せないが、一人一人の個性を大切に伸ばしてくれる施設のおかげで、個性的な文字を書き、昨年末、DEAN&DELUCAのクリスマスオーナメント缶の文字に採用されたという。

 

「その弟の縁で、私は知的障がいのあるたくさんの人と接してきました。障がいの程度はさまざまですが、一様に言えるのは、争いやもめごとが苦手で、強い口調で責められると固まってしまうこと。

 

3人の共犯者も、取調べで強い口調で責められたら抗うことなどできなかったはず。事実と違うことを言わされ、服役させられた彼らも、可哀相な被害者なのです」

 

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