50歳を過ぎたあたりから、「会話中に人や物の名前がスッと出てこない」という人は多いのではないだろうか。
「『ど忘れ』は50代、60代になりますと、誰でも起こってくるものです。頭のなかに記憶は残っているのに、どうしても名前がうまく思い出せず、もどかしいといった感じです。ところが、人や物の名前だけでなく、時系列を間違えて混乱する場面が増えてきたら注意が必要です」
そう語るのは、『認知症グレーゾーン』(青春新書)の著者で、「メモリークリニックお茶の水」の朝田隆院長。
認知症の患者数は年々増加傾向にあり、2040年には高齢者の4人に1人が、認知症を発症するとも予測されている。また、“巣ごもり”が長引くと認知機能が低下するといったデータも出てきている。「ど忘れ」は認知症の前段階、軽度認知障害(MCI)の初期症状のシグナルかもしれないので、「年のせい」と、そのままにしておくのは危険という。
「MCIを“認知症グレーゾーン”と呼んでいます。MCIが始まってから本格的な認知症に移行するまで平均7年。進行には個人差がありますが、始まって1年後には12%、4年後には半数が認知症を発症するともいわれています。認知症はある日突然発症するのではなく、約20年前から脳の変性が始まっています。いったん認知症になると回復するのは困難ですが、認知症グレーゾーンの段階で適切に対応すれば、4人に1人は元の状態に回復します。大切なのは認知症グレーゾーンのシグナルに気づくこと。生活のさまざまな場面で出てくるので見逃さないようにしましょう」(朝田先生・以下同)
【「軽度認知障害(MCI)」初期シグナル】
□ 「面倒だ」と思うようになる
□ 先延ばしした出来事を忘れる
□ いつ行ったのか時系列が混乱してくる
□ 物をしまう場所を変えたのを忘れる
□ 「物を取られたらどうしよう」と猜疑心が強くなる
□ 身だしなみを気にしなくなる
□ 長年続けていた趣味、習い事を急にやめる
□ やらないことに対しての言い訳が増える
□ 突然起こった出来事に対してパニックに陥る
たとえば、認知症グレーゾーンの人は、固有名詞が出てこない、時系列が混乱するといったこと以外に、もう1つ特徴的な変化がある。当たり前のようにできていたことを「面倒くさい」「次にやればいいや」と思うようになる。
「認知症のシグナルというと物忘ればかりが注目されますが、じつは“やる気”が失われることから始まります。疲れやストレスが一段落したり、休養を十分に取ったりすると体力、気力は回復してきますが、長年続けていた趣味や習い事を急にやめる、面倒くさいと言わずに『やらないことに対しての言い訳』が増える、といった変化がみられたら注意が必要です」
「女性自身」2021年3月16日号 掲載